偽る恋のはじめかた



「黒須君、一つ聞いていい?」

「なんすか?」

「黒須君が女の人の家に上がって、その人が酔っ払ってベッドにいたらどうする?」

「それは、完全にいただきますね。」

「・・・・・・だよね?!」

「そんなチャンスに、いただかなかったら男じゃないっすよ」


即答で応える当たりが黒須君らしい。
黒須君が言うように、男だったら普通手を出すよね・・・・・・。桐生課長にとって、私は女として見られていない。それか、本当に残念な男。

———彼はどっちだろう。



「・・・・・・桐生(きりゅう)課長に手出されなかったんすか?」

「なっ、んで。それを?」

「だって、昨日一緒に帰ったでしょ?」


なんて返事をしていいのか分からず、答えを返せなかった。



「安心してください。俺なら優しくいただきますよ?」

「いや、逆に私がいただけないのよ」


年下の後輩に手を出すなんて、先輩として出来ない。冗談には乗らずに冷静に返す。

< 90 / 261 >

この作品をシェア

pagetop