偽る恋のはじめかた




黒須君が、私が困っているのを察してくれたのかは定かではないけど、私と目が合うとコクン、と小さく頷いてくれた。その動作が私の勘違いではないことを物語っているような気がした。



「昨日は・・・・・・、迷惑かけてすみませんでした」


他の社員は話が盛り上がって私達のことを気にもしていない。今のうちにと思い、自分の席に座る桐生課長に、みんなに聞こえないように小声で告げた。


「大丈夫だった?帰った後も心配で気になってたんだ」

「・・・・・・大丈夫です」

「良かった。心配してたんだよ」


桐生課長の優しい眼差しに胸の奥がきゅっとなる。朝からイライラしていた感情が、彼の一言と笑顔によって全て浄化された。


あんなに朝から荒立って、コーヒーを飲んでも、甘いお菓子を食べても、外の綺麗な空気を吸っても、収まることはなかった。

なにをしても苛立つ気持ちが収まらなかったのに、桐生課長の一言と笑顔でこんなに簡単に無くなるなんて・・・・・・。


苛立ちの代わりにドキドキと心臓が高鳴る。
あぁ、これはダメかもしれない。



ずっと閉まい込んでいた感情が蓋が弾け飛んで、溢れ出してしまいそう。




———好きという感情が

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