偽る恋のはじめかた
「今日の・・・・・・オススメで、お願いします」
「美味しそうだね。俺も同じやつにしようかな」
狭い個室で向かい合った席。目の前には綺麗な顔で笑う桐生課長がいる。改めて見ると、本当に顔立ちが整っている。間違った俺様上司なんて演じなければ、今ごろたくさんの女性社員からアプローチや告白をされていただろうな・・・・・・。
「椎名さん、もしかして体調悪い?」
「い、いえ、大丈夫です」
変に意識してしまって、上手く話せなくなってしまった。
いつもと同じ感じで話さないと・・・・・・——。
どういう感じで話してたっけ?自分が分からなくなってくる。
「昨日は、恥ずかしいところを見せてすみませんでした」
「全然大丈夫。・・・・・・昨日のこと気にしてたりする?」
昨日のこと・・・・・・?
なんのことだろう。思い当たる節が多すぎて、どれだか絞り込めない。
「帰ってから反省したんだけど、女性の部屋を勝手に片付けるなんて、ダメな行為だったなあって」
「・・・・・・あぁ」
桐生課長の言葉によって忘れていた、いやな記憶が蘇る。酔っ払った私を寝室のベッドの部屋まで運んだのに、一切手を出さずに汚れ果てたリビングを綺麗に掃除して帰ったのだ。
紳士と取るべきか、
女として全く見られてないと取るべきか。
残念ながら、後者だろうな・・・・・・。