殿下、溺愛する相手がちがっています!

いち

 推しの王子の婚約者となったわたしは王妃教育を受け、フォックス殿下とも仲良く過ごし――今年、16歳になった。
 
 今、乙女ゲームが始まる、王都のシルルアン学園に通っている。

「ハァ、今日もフォックス殿下はステキだった」
 
 王妃教育がない学園帰りの馬車の中で、お手製の狐の抱き枕を抱えて、わたしは悶えていた。それを「またですか」と。わたしの従者で猫族のアルは、膝上に座る、国宝の聖霊獣ルフ様の頭を優しく撫でながら呟いた。
 
 ルフ様、また着いてきたのね……

 その聖霊獣ルフ様はわたしの"フォックス殿下愛"に興味がなく、従者アルに頭を撫でられて気持ち良さげに「ニャァ」と鳴き、モフモフの尻尾をフリフリさせる。

(モフモフは究極の癒しですけど)
 
 わたしの話を聞かず、二人だけの世界を作るアルとルフ様に。フォックス殿下愛を語っていた、わたしは頬をプックリ膨らました。

 それを見たアルとルフ様は。

「今日も、はじまりますね」
「そうにゃ」

 ため息を漏らす。

「もう二人とも、フォックス殿下に興味なさすぎる。わかった、今日こそはフォックス殿下に興味を持ってもらう! フォックス殿下は……」
 
 わたしは2人の態度にやけになり、フォックス殿下のいいところを語る、語りつくす。あの切れ長な琥珀色の瞳と、蜂蜜色の髪――笑ったときに糸目になる瞳と、あがる口元。

 まさに、フォックス殿下はわたしのタイプ――好き。

「フォックスはステキにゃ(棒読み)」
「ええ、ステキですね、ラビットお嬢様(棒読み2)」
 
「そうでしょう! (わかればいいのよ)」

 婚約者だから、フォックス殿下に「ラビット嬢」と名前を呼ばれて、学園を卒業するまで絶好のポジションにすわれる。
 
 シルルアン学園を卒業と同時に婚約破棄をされたあと。

 わたしはグレイス国の平民となり、国王陛下となったフォックス殿下の幸せだけを、影で祈りながら生きていく。

 わたしは――わたしの幸せより、推しの幸せが一番だ。
 
 前世で辛く悲しいとき、乙女ゲームのフォックス殿下と出会い。彼の笑顔にたくさん助けてもらい、元気をもらった。

「わたしは、フォックス殿下が幸せならいいの」


「「…………」」


「今、アルとルフ様は目を瞑っていたけど、わたしの話を聞いていた?」

「はい、聞いておりました。がんばってください、ラビットお嬢様、アルはお嬢様の味方です!」
 
「ラビット、がんばるにゃ」
「えぇ、気合を入れてがんばりますわ!」
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