殿下、溺愛する相手がちがっています!

ろく

 アルとルフ様の前から姿を消した、フォックス殿下はわたしを自分の寝室に連れてきた。ベッドの上、黒ウサギとなったラビットは本能に逆らえず――フォックス殿下に近寄り甘えてしまう。

(うう……体が勝手に動いて、フォックス殿下にスリスリしちゃう……嬉しいけど、恥ずかしいよぉ)

 獣化したわたしは、フォックス殿下のことが好きな黒ウサギ。

(獣化から戻るまで、離れられない)
 
 一日はこのままか、わたしの好きが満たされないと、元に戻れない。獣化して、いつもとは違い逃げないわたしに、フォックス殿下は嬉しそうに寄り添う。

(……気持ちいい)

「もっと、して」

(あ、兎のときは『ほんね』が口からスルッと出てしまう)
 
「僕に甘えている、ラビット可愛い」
「……フォックス殿下」

 誰がみても二人は両思い、婚約者だしいいのだが。
 側近アルと精霊獣ルフ様は獣化したときよりも、獣人となった可愛いラビットをみて、狐のフォックスが我慢できるかが心配なのだ。

 ルフ様いわく。

「アイツの愛はどす黒くて、ネッチョリ、重いにゃ」

 だそうだ。

 

 ❀



 フォックス殿下の寝室で、同じく獣化したフォックスにスリスリされるラビット。
 
 幸せ……フォックス殿下、大好き。
 
「チッ、ラビットの甘い匂いがうすれる。もう、戻るのか……」

 わたしはフォックス殿下から多くの愛をもらって、獣化からボフッと獣人の姿になる。だけど、着ていたドレスはアルが"魔法の箱"に回収済みで――裸だ。

 わたしはシーツを手繰り寄せて、体を隠した。

「フォックス殿下、見ないでください」
「そう言われてもね、見えてしまうのは仕方がないかな?」

「…………っ!」

 狐の姿のフォックス殿下が見てくるのが、恥ずかしくて、わたしは彼の瞳をかくした。
 
「ラビット?」
「だって、見るから」

「フフ、可愛いなぁ……ラビット、ベッドの下に落ちている、僕の服を拾って着替えて」

「シャツ? いいのですか? ……お借りします!」

 ベッドの下に落ちている、フォックス殿下のシャツを着た。

 あ、こ、これはだめ……フォックス殿下の濃厚な香りがする、香りにクラクラする。濃いフォックス殿下の香りに徐々に真っ赤になるわたしを見て、フォックス殿下は目を細めた。

「ごめんね、僕が脱いだシャツしかなくて」
「い、いいえ。貸していただき、ありがとうございます」

「さぁ、ラビット」

 わたしはベッドに戻り、狐姿のフォックス殿下をなでる――それは幼い頃からのわたしの係。

「なで、なで、気持ちいいですか?」
「ああ、気持ちいい」

 目をつむり、されるがままのフォックス殿下が愛おしくて、わたしにとっても幸せの時間になる。

 ――でも、ゲームのフォックス殿下は終盤になってから獣化していた。でも、いまは何かの拍子に獣化してしまうと言っていらした……

 フォックス殿下のトリガーはなんなのかしら?
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