殿下、溺愛する相手がちがっています!

はち

 わたしに頬にキスしてと、フォックス殿下は言った。

「ほ、ほ、頬にキスするのですか?」
「ラビット、はい」

 フォックス殿下に頬を差し出されて『はい、しますね』っておかしいけど……しないの? と、見てきたフォックス殿下の表情が可愛くて、欲望にまけて彼の頬にチュッとキスをした。

 あ、フォックス殿下の頬って柔らかい。

「ちょっと、あんた! 悪役令嬢のくせに私のフォックス様になにしているのよ!」

 アルディリアにさらに火がつく。
 フォックス殿下はそれを気にせず。

「ありがとう、ラビット、僕からのお返し」
「ん? ……んん?」

 唇にキス⁉︎

「甘い、ラビットの唇はデザートのようだ。もっと、ラビットを食べたいけど……いまは我慢する。僕はラビットが一番好きだよ」

 トクゥン、あわわっ……もうダメっ!

 フォックス殿下の極上の笑顔と告白、おかえしがキスだなんて! ラビットへのスキ、スキ、トリガー発動する。「ポフン」と、アルディリアの前でラビットは獣化した。

 わたしはフォックス殿下に向けて、小さな足で足ダンした。

「もう、フォックス殿下! この前、わたしの両親に「結婚するまで控えなさい」って、言われたじゃないですか! ひどい、お父様にまた怒られるわ」

 だけど、お母様は違ってニコニコ笑顔で「いくらでもやりなさい!」と言うけど。お父様は怖い顔で「控えなさい」っていう。

「ごめん、僕も一緒に怒られるから許して」

 と、細めで笑う、狐の姿のフォックスがいた。
 

「「ええ、獣化?」」
 

 どういうこと、いつのまにフォックス殿下のトリガーが発動したの?
 
「……ごめんね、僕だけ獣化するのは嫌だったから、ラビットも巻き込んだ」

「ま、巻き込むなんて」
「ごめんね、あとで、ラビットの好きなデザート奢るから」

 ――うっ、そんな、わたしの好きな可愛い顔で言うなんて……ひきょう。

「デザート、約束ですよ」

「うん、うん……ねえ、これでわかった? 僕は君に興味がないのが」

 アルディリアに見えるよう、フォックス殿下はラビットの頬をガジガジ甘噛みした。

「嫌よ。フォックス様は私を愛してガジガジするの! 私は愛されるヒロインなの……わかった、コイツにたぶらかされたのね! ラビット! 私のフォックス様を返して」

「ラビット!」

「!」

 我を忘れて、いきなり両手を伸ばし私を捕まえようとしたアルディリアだけど、いまは黒ウサギなので軽やかにジャンプでかわした。

 そのため彼女は勢いよく、書庫の机に突っ込んだ。

「わっ、ごめんなさい。アルディリアさん、大丈夫?」

 近寄ろうとしたけどフォックス殿下に止められて、彼はアルディリアさんの周りをまわり。
 
「……大丈夫、タンコブはできたかもしれないが、気を失っただけだ」

「そっか、よかった」

 大きな物音に外で待っていたフォックス殿下の側近と、アルとルフ様が書庫に飛び込んでくる。その三人がみたのは獣化したフォックス殿下とラビット、そして机に突っ込み、気絶したアルディリアさんの姿だった。

 フォックス殿下は側近に。

「その子を医務室まで運んで、気付いたら家まで送ってやってくれ」
 
「かしこまりました、フォックス様」

 命令を受けた側近はアルディリアさんを連れて、医務室にむかった。書庫にはフォックス殿下とわたし、アルとルフ様が残る。
 
「フォックス!」

 ルフ様はふわふわ浮き上がり、フォックスに近付く。

「ルフ様、直接には何もしておりません。ただ、あの子に僕の愛を見せただけです」


 ――愛?


「愛ですか……フォックス殿下はラビットお嬢様の前では、ひとたまりもないですね」
 
「そうにゃ。フォックスは簡単に飛びすぎにゃ」

 ルフ様は長い尻尾でペシッと、フォックス殿下の顔を叩く。

「イテッ、愛しているんだから仕方ないだろう。父上だって、いまだに獣化して母上に甘えている! ……僕だってラビットをガジガジ噛みたいし、ベッタベッタに甘えたい!」

 ポフン……うっ、今のフォックス殿下の愛の言葉で、ウサギだったわたしの獣化が解けて、三人の前に裸のわたしが降臨した。

「…………!」

 それと同時にフォックス殿下も獣化を解き、しゃつをもって、わたしを隠すように抱きしめた。

 目の前に、裸のフォックス殿下⁉︎
 
「大丈夫だ、ラビット。アルはラビットの裸を見るな!」

「フォックス、落ち着くのにゃ! 今の自分のいまの姿をみろ!」

「うるさい!」


 フォックス殿下の筋肉が……刺激と香りが濃い。
 
 わたしはポフンと、ふたたび黒ウサギに戻り。
 コテンと気絶した……わたしには刺激が強すぎたのだ。

「ラ、ラビット?」
 
「にゃっ! 裸のままラビットを連れて行こうとするにゃ。アル見ていにゃいで、フォックスをとめるにゃ」

「はい、はい! フォックス様。気絶したラビットお嬢様をこちらに渡して、先ずは服を着ましょうね」

 ここで、一番落ち着いていたのはアルだった。
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