真夏に咲いた奇跡の恋花火
「おいおい嘘だろ? お前が? こんな可愛い浴衣を? どういう風の吹き回しだよ〜! 若作りにでも目覚めた?」



(あざけ)る声、悪意しかない言葉。
言動1つ1つがグサグサと心に突き刺さる。



『なぁ、皆吉の家って、お店やってる?』

『ええっ⁉ 毎年あんなババくせぇ服着て接客してんの⁉』



それが引き金になったのか、封印していた記憶がよみがえってしまった。


こんな時、お兄ちゃんがいたら……。

脳裏に眉尻を吊り上げる兄の顔がよぎったが、頭を横に振って消し去る。


思い出して。出発前日に約束したことを。


お兄ちゃんが傍にいなくても頑張るって。
1人で立ち向かっていくって。


もうあの頃の弱い私とは違う。

帰ってきた時、笑顔で迎えられるように。
──強くなるって、決めたんだ。



「それかなに、彼氏でもできたとか?」

「返してよ……っ!」



強引に奪い返し、その場から走り去る。


うるさいうるさいうるさい。
なにが地味だ。なにが暑苦しそうだ。
誰のせいでこうなったと……っ。


湧き上がってくる、張り裂けそうな心の叫び。

溢れ出てしまわないように強く唇を噛みしめた。
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