星降る夜に
星降りの夜
宙間エレベーターの拠点施設に入ってみると、施設内は思っていたよりはるかに広く、空港のようなイメージだった。


チケットを買ってエレベーターに乗り込むだけだと思っていたが、荷物検査や手続き、身分確認など予想外に何時間もかかってしまい、苛立ちが募る。


漸くのことで宙間エレベーターに乗り込んだ俺だったが、先ほどの苛立ちはどこへ行ったか、そのスケールの大きさと景色の美しさに目を奪われる。

360度見渡せる、透明色のそれは、今にも落下しそうな恐怖を与える反面、非日常な圧倒的感動を見るものに与えた。


眩いばかりに光輝く秋夜の東京は、まるで宝石のようだった。
そんな景色に感動しながらも、これを夏海と一緒に見れたら・・・なんて考えている自分に気が付いてしまう。


だが、そんな思いも、別れの悲しさへと姿を変える。
月を見るたびに。



母なる大地から離れ行くこの光景を、夏海はどんな思いでみたのだろうか・・・。




そんな事を考えていると、あっという間に宙間基地に到着した。

幸い、まだ飛び発つまで1時間以上はあった。

急いで2番ゲートを探す。


無駄に広い為、少し戸惑ったものの、無事2番ゲートを発見する。




・・・そこで自分の目を疑った。

20時発の便など存在していなかったのだ。



なんで・・・?


ただただ呆然とした。

そうか、夏海は俺に会わずに行く為にわざと・・・。



そう気づいた瞬間、走り出していた。


行くあてもなく、夢中で走り、ふと外の景色に足が止まった。

どうやら展望室らしかった。

地球と月、両方が見れることが自慢の展望室。


そう、俺の目に映ったのは眩いばかりの輝きを放つ、月。

改めて、夏海との別れを実感させられる。

足から力が抜けていき、その場に座り込む。

「『なにせむにか命も惜しからむ。たがためにか。何事も用もなし』・・か」

急にこんな文が口をついて出る。学校で習った、竹取物語の中で、かぐや姫を失った帝の言葉だ。

こんなにも夏海を想う自分の気持ちが今になってはっきりわかった。なんで今まで・・・。


「はぁ、人の見送りもせずに、こんなとこでやってるんだか」


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