夕陽を映すあなたの瞳
 「ん?伊吹くん、どういうこと?」

 仕事を終えて、駅までの道を歩きながら、心は首をかしげる。

 仕事中に昴からの着信があり、心は会社を出たあとかけ直していたのだ。

 だが、電話口の昴は何やら興奮気味で、話の内容がよく分からない。

 「だから、サラはアメリカの超有名企業のCEOのお孫さんだったんだよ!」
 「ん?サラが、えっと、何のお孫さん?」
 「有名企業のCEO!」
 「何?その、CEOって」
 「え、あの、つまり最高責任者」
 「へえー、社長ってこと?」
 「いや、社長より上だ」
 「ええー?!社長より上って何?そんな人いるの?」
 「いや、あの…」

 昴は、だんだん逸れていく話にヤキモキする。

 「とにかく、今うちの会社、凄い騒ぎなんだ。何億ってお金が動くことになるから、それはもう大変で」
 「ふーん。やっぱり凄いねー、伊吹くんって。そんなに大きな企業で働いてるんだね。さすがだなー」
 「いや、あの、だから俺が言いたいのは、久住のおかげなんだよ!」
 「は?何が?」
 「だから、今回のこと。久住がサラと仲良くしてくれただろ?それをサラが話したらしいんだ。祖父にあたるCEOに。それで、うちの会社に話が来た。久住、俺は全部久住のおかげだと思ってる」
 「えー?そんな訳ないよ。だって私、その、BCGだっけ?そんな人と関わりないもん」
 「CEOだよ。でも、とにかくお礼をさせてくれ。近いうちに食事に招待させて欲しい。詳しい話はその時にでも」
 「別にいいって。あ、電車来たから切るね。またねー」
 「く、久住!」

 そして電話は虚しく切れた。
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