夕陽を映すあなたの瞳
 心と昴は、二人で肩を並べて駅へ向かう。

 「そう言えば伊吹くん。サラとあれから連絡取った?」
 「ああ、うん。仕事のことでやり取りしてね。そうだ、久住に話そうと思ってたんだ」

 昴はようやく我に返り、サラのことを心に話す。

 サラは、やはり有名な企業のCEOの孫娘だった。
 だが本人は、周りからそんな目で見られるのにウンザリしていた。
 誰も本音で話してくれず、心許せる友人も出来ない。

 サラは素性を隠して、祖父から離れた子会社で働き始めた。
 それでも毎日、祖父が雇ったSPにあとをつけられる生活…。

 サラはついに、以前から興味のあった日本に出向したいと上司に頼んだ。

 素性を知らない上司はすんなりOKしてくれたが、それを知った祖父は大反対だった。

 何かあったらどうする?せめて警護はつけろ。ホテルのスイートルームで暮らせと。

 半ば押し切るように、サラは自分でマンスリーマンションを手配して来日した。

 何もかも自分一人でやろうと思っていた。
 だが…想像以上に毎日は辛かった。

 言葉が通じない、文化も違う。
 どこで買い物すればいいかも分からない。
 電車の乗り方も難しい。
 頼れる人や友人もいない。

 アメリカに帰りたい、でも祖父の反対を押し切った手前、帰れない。
 サラは、なんとか自分の力で乗り越えたいともがいていた。

 そんな時、仕事の取引先の昴が声をかけた。
 何か困っていることはないか?と。
 思わずポツリと、買い物に行きたいと漏らした。

 そして、心と3人で買い物に行った。
 それはそれは楽しい時間だった。

 日本の綺麗なショッピングモール、見たことのないアイデアグッズ、素敵な雑貨。

 何より、心との会話が楽しくてたまらない。
 久しぶりに誰かと思う存分話せた。
 ただおしゃべりすることが、こんなにも幸せなことだなんて!
 
 さらに心は、つまみ細工を教えてくれ、花火大会では浴衣までプレゼントしてくれた。
 夢のようだった。

 やがて帰国の日になる。
 心や昴と別れるのは辛かった。
 だが、こんなにも別れが辛くなるほど大切な友人が出来たことが嬉しかった。

 帰国するなり、サラは祖父に興奮気味で話をした。
 どんなに日本が素晴らしいか。
 どんなに素敵な友人が出来たか。
 どんなに大切な毎日を過ごしたか。
 そして、どんなに自分は成長出来たかを。

 祖父は、嬉しそうに目を細めて、何度も頷きながら聞いていた。
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