夕陽を映すあなたの瞳
 「久しぶりー!心ちゃん!」
 「お久しぶりです、沙良さん!」

 待ち合わせした以前と同じカフェ。
 二人は抱き合って再会を喜ぶ。

 席に着いてラザニアを注文するやいなや、すぐさま話は盛り上がる。

 「心ちゃん、髪ばっさり切ったんだね」
 「そうなんですよー。私、切る時はいつもばっさりなんです。同じ値段だから、その方がお得かなって」
 「えー?あはは!心ちゃんって、やっぱり独特」
 「そうですか?って、沙良さん!その指
 輪!」

 沙良の左手薬指に光るダイヤの指輪を見て、心は目を丸くする。
 
 「うわー、綺麗!素敵ですねー」
 「うふふ、ありがとう!」
 「もちろん桑田さんからですよね?ひゃー!なんか私、関係ないのに照れちゃう」

 両手で頬を押さえる心に、沙良は、あはは!と笑う。

 「私ね、別に婚約指輪なくても良かったの。そんな話題になったこともないのに、ある日いきなり、はいって渡されて」
 「ええー?!桑田さんが?」
 「そう。何これって箱を開けたら、この指輪でしょ?もう、頭の中ハテナでいっぱいよ」
 「そうなんですか?キャッ♡ってならなかったんですか?」
 「それはさー、なんとなくそんな雰囲気になってたら、私もキュンってなったと思うわよ。でもね、夕飯のあと、食器洗い終わってソファに座ったら、はいって。私、エプロンで手を拭いてた途中よ?」

 想像して、心も思わず笑ってしまう。

 「それは、確かに固まりますね」
 「でしょ?何これ、まさか婚約指輪?え?なぜ今?って」
 「うんうん」
 「しかもさ、そのあとのフォローもないのよ。私がポカーンとしてると、サイズ合うか?ってひと言。それで私がはめてみて、うん、大丈夫って言ったら、そうかって」
 「えっ?それで終わり?」
 「そうよ。それで今日に至るって感じ」

 ひょえー!と心は仰け反る。

 「いやでも、桑田さんっぽいと言えば桑田さんぽいなあ。精一杯のがんばりだったのかも。だって、その指輪を一人で買いに行ってくれたんですよね?」
 「あー、そっか。そう言われてみればそうね。やだ!想像したら笑っちゃう!どんな顔でお店に入って行ったのかしら」
 「そうですよね。あの強面で…。店員さん、きっとやりづらかったでしょうね」
 「絶対そうよー。なんなのこの人?みたいな」

 想像して散々二人で笑ったあと、ふと沙良は小さく呟く。

 「そっか。私の為に勇気出して買いに行ってくれたんだな。改めてちゃんとお礼言わなきゃね」
 「そうですよ。きっと顔を真っ赤にしながら、沙良さんの為にって。愛されてますね、沙良さん」
 「ふふふ、ありがとう!心ちゃん」
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