夕陽を映すあなたの瞳
 美味しいラザニアを食べながら、今度は沙良が心に聞く。

 「心ちゃんはどうなの?ほら、この間このお店で会ったイケメンビジネスマンとは」
 「あー、特に変わりないですよ」
 「会ったりしないの?」
 「時々会ってました。そうそう、ここでばったり会った時に一緒にいた外国人の女性、沙良さんと同じ名前なんです」

 へえー、偶然ね、と沙良が言う。

 「そうなんです。それで、私もあのあとそのサラと仲良くなって。伊吹くんと3人で遊んだりしました。伊吹くんのうちで花火見たり」

 えっ!と沙良が声を上げる。

 「心ちゃん、その伊吹くんのおうちに行ったの?」
 「ええ。前からちょくちょく行ってましたよ」
 「そ、そうなんだ!へえー。それで?なんにもないの?」
 「なんにも…とは?サラと3人でおしゃべりしたりしましたけど」

 そうなんだ…と言って、沙良は何かを考え込む。

 「ねえ、心ちゃんから見て、その伊吹くんってどんな人なの?」
 「伊吹くんですか?頭が良くて、優等生って感じです。昔からずっとそんなイメージですね。今はバリバリの商社マンみたいですけど、別に偉そうな、近寄りがたい雰囲気でもないですし。そうそう、この間会った時は…」

 そこまで言って、ククッと笑いを堪える心を、沙良が促す。

 「うんうん、なーに?」
 「仲のいい4人で飲んだ帰り道に、伊吹くんと話してたんです。そしたら、じーっと私を見てくる目がうるうるしてて、もうイルカそっくりで!私、いつもの癖で、頭なでそうになりましたよ」

 あはは!と笑う心と対照的に、沙良は真顔で手元に視線を落とす。

 「ん?沙良さん、どうかしました?」
 「心ちゃん。私ね、その時の伊吹くんの気持ちが手に取るように分かるの」

 え、どういうこと?と、心は首をかしげる。

 「だって、私も全く同じこと言われたことがあるから。まだ彼とちゃんとつき合い始めてない時にね、何気なく会話してて、楽しそうに笑う彼に見とれたの。思わずじっと見つめてたら、彼も私を見つめ返してきて…。なんとなくいい雰囲気で、思い切って好きですって言っちゃおうかなと思ったら、彼がふっと笑って言ったの。お前の目、イルカみたいだなって。しかもそのあと、頭をクシャッとなでられたの」
 「へえー、桑田さんも?じゃあ、あれかしら。一種の職業病ってやつ?」

 心の呑気な言葉に、沙良は思わず身を乗り出す。

 「そうじゃなくて!あーもう、心ちゃん。その時の伊吹くんの気持ちが分からない?」
 「え?うーん、特に何も?いつもと同じ会話でしたよ」

 沙良はがっくりとうつむく。

 (伊吹くん!しゃべったことはないけど、私はあなたの味方よ!がんばって!)

 拳を握り、沙良は心の中でエールを送った。
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