夕陽を映すあなたの瞳
第三章 8年ぶりの再会
 (えーっと、このホテルだよね?)

 ホテルの名前を確かめてからエントランスに入り、広くて解放的なロビーをぐるっと見渡す。

 (うわー、天井が高くて素敵!こんなゴージャスな場所に来るなんて、いつ以来?)

 高級ホテルとまではいかず、いわゆるファミリー向けのホテルだったが、それでも普段職場と自宅の往復しかしない心にとっては、豪華な雰囲気だ。

 上を見上げていると、ふいに、久住!と呼ばれて心は振り返った。

 大きな柱の横にあるソファから立ち上がり、にこやかな笑顔で近づいて来る一人の男性。

 ダークネイビーのシックなスーツに、爽やかなブルーのネクタイを合わせた背の高いその男性は、洗練された雰囲気をまとった優雅な足取りで、なんだか映画の中の俳優さんみたいだなと、心はぼんやり眺める。

 「久しぶり!元気だった?」

 目の前で立ち止まった男性にそう声をかけられ、ようやく心は我に返る。

 「え、ええ?!ひょっとして、伊吹くん?」

 すると今度は男性が目を丸くする。

 「え、そうだけど…。何?なんか俺、おかしい?」
 「いやだって、高校の制服じゃないから、びっくりして」
 「ええ?!制服着て来る方がびっくりじゃないか?」

 さっきまでの爽やかさもどこへやら、昴は真顔で驚いている。

 「制服ー?!ここに制服で現れたら、それは私もびっくりよ」

 心がそう言うと、昴はますます困惑したようにうろたえる。

 「ちょ、ちょっと、あの。久住、一旦話を戻さないか?もう一回やり直していいか?」
 「え、やり直し?何をやり直すの?」
 「うん、あの、3分前の気分に戻って待っててくれる?」

 そう言うと、くるりと向きを変えて先程までいたソファへ向かう。

 やがてソファの前で立ち止まると、気持ちを入れ替えるように深呼吸してから、昴は心を振り返った。

 「久住、久しぶり!元気だったか?」
 「伊吹くん!久しぶりだねー。なんだか見違えちゃった」
 「え、そう?」
 「うん。だって私、高校時代の制服姿の伊吹くんが頭の中にあったから、一瞬誰かと思っちゃった」

 すると昴は、ポンと手のひらを打った。

 「あー、そういうことか!」

 ん、何が?と心が首をかしげる。

 「いや、ようやく久住の言ってることが分かったよ。良かった。俺、ちょっと宇宙人に遭遇した気分だった」

 宇宙人?!と、心は抗議の声を上げる。

 「久しぶりに会った同級生に、宇宙人ってどうなの?!」
 「ご、ごめん。だってほんとに、どうしようかと思ったんだもん」
 「なんで?私、普通でしょ?どこをどうやったら宇宙人だと思うの?魚屋さんに間違われるなら分かるけど」
 「さ、魚屋?!な、なんで魚屋?」
 「あ、分からない?それならいいんだー。良かった!」

 そう言ってにっこり笑う心に、昴はもう一度、宇宙人を見るような目で困惑した。
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