夕陽を映すあなたの瞳
 顔を上げると、エントランスの脇にもたれかかっている男性の姿が目に入る。

 (えー、誰?こんな夜遅くに。もう11時だよ)

 少し警戒しながら、急いでエントランスに入ろうとした時だった。

 「えっ?」

 その男性が、ふと心を見て呟く。

 「えっ?って、ええー?!」

 今度は心が驚いて目を見開いた。

 「い、伊吹くん?!」
 「く、久住か?!」

 互いに驚きを隠せず立ち尽くす。

 「ど、どうしたの?こんな所で」
 「いや、く、久住こそ、どうしたんだ?」
 「え?いやだって、ここ私のマンションだし。普通に帰って来ただけだけど?」
 「普通って、久住。その格好…」

 ん?と、心は自分を見下ろした。

 「ああ!これね。職場の先輩の結婚式だったの」
 「そ、そうだったのか」

 今日の心は、もちろんいつものジーンズではない。

 ラベンダー色のワンピースに濃いパープルのファーのボレロ、そして今はその上に、オフホワイトのロングコートを羽織っていた。

 髪型も美容院でアップに整えてもらい、飾りもつけている。

 散々知り合いに、化けた化けたと言われた1日だった。

 「伊吹くん、本当にレアな私によく出くわすね。年に二回しかないスカートデーなのに、去年は二回とも会ったでしょ?凄いねー。ところで、どうしてここにいるの?」

 そう言われて、昴はようやくハッとしたように思い出す。
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