夕陽を映すあなたの瞳
 「うわっ寒い!すぐ暖房入れるね。その辺に適当に座ってて」

 昴にそう言い、エアコンをつけてから、心は洗面所に行く。

 うがいと手洗いを済ませると、ワンピースを脱ぎ、部屋着に着替えた。

 「えーっと、ココアでいいかな?」

 部屋に戻り昴に声をかけると、ふと心を見た昴が小さく、あっと言う。

 「ん、なーに?どうかした?」
 「いや、その。もったいないなと思って」
 「もったいない?」

 心はキョトンとする。

 「あの、せっかく綺麗な格好してたのに、そんなすぐに着替えちゃって…」
 「ええー?いや、もう充分だし」
 「俺が充分じゃないっていうか、その」

 昂の小さな呟きは気に留めず、心はマグカップにココアを淹れてローテーブルに置く。

 「はい、どうぞ」
 「ありがとう。あったかいね」
 「うん。寒い中待たせちゃって、本当にごめんね。でも良かった。このスマホなくしたら、ショックで泣いちゃうとこだったわ。今日ね、たくさん写真撮ったの。ほら!」

 そう言って、昴に結婚式の写真を何枚か見せる。

 「綺麗でしょー、花嫁さん。あ、そう言えば伊吹くんも会ったことあるよ、この人」
 「え、そうなの?」
 「うん。ほら、サラと伊吹くんに最初にばったり会ったカフェ。あの時私と一緒にいた人がこの花嫁さんなの。しかもね、名前も沙良さんって言うの」
 「へえー、そうなんだ。あ!ちょっと、今の写真もう一回見せて」
 「ん、どれ?」
 「さっきの、大勢で写ってる…あ、それ!」

 心は手を止めて写真を見せる。
 新郎新婦の二人を、ショーチームのメンバーが囲み、笑顔で写っていた。

 「かわいいなー」
 「でしょ?昔はテレビのレポーターやモデルさんもしてたんだって。本当に綺麗な人よねー」

 心の言葉は聞き流し、昴はじーっと写真の中の心を見ていた。
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