夕陽を映すあなたの瞳
第十九章 通達と告白
 「伊吹、おはよう。お前さ、給与明細見たか?」

 週明け、かろうじて会社に辿り着くと、同僚が声をかけてくる。

 「おはよう。え、何?なんの話?」
 「だから、給与明細。お前、ロイヤルローズカンパニーの件で、すんごい待遇上がってるはずだぞ?見てないのか?」
 「見てない。明細はいつも大して気にしてないし」
 「えー?!マジかよ。今回はちゃんと見てみろよ。多分、凄い金額振り込まれてると思うぞ」

 興味津々で聞いてくる同僚に、はあと気の抜けた返事をしてデスクに向かう。

 昴は、おとといの心の言葉が突き刺さり、昨日も1日ぼーっとしたままだった。

 「伊吹 心は?」
 それは明らかに、自分と結婚して"伊吹 心"になるのはどう?という意味だった。

 それに対して心は…
 「絶対だめ!それはさすがに考えられない」
 と言ったのだ。

 心のばっさりとした切り方は、同窓会の時の瑞希を彷彿とさせる。

 数年越しの想いを胸に告白した瑞希も、あっけなく心に切られていたっけ。

 「はあー」

 昴は大きなため息をついて、デスクに突っ伏した。

 「おいおい、伊吹!お前、何をそんなにシケた顔してんだ?これからロイヤルローズとのでっかい仕事、お前が中心になってやっていくんだからな。気合い入れろよ!」
 「はあ」

 ため息なのか返事なのか…
 もはや昴は、気の抜けたソーダのようだった。

 かろうじてパソコンを立ち上げると、先程の同僚の言葉を思い出す。

 (給料か…。そう言えばボーナスの金額も見てなかったな)

 昴は、給与振込の口座をインターネットバンキングで見てみた。

 まず初めに、残高が表示される。

 (ん?なんだ、この数字。いち、じゅう、ひゃく、せん、まん…え?じゅうまん、ひゃくまん、せんまん…え?)

 「なんだこりゃー!!」

 昴は思わず大声を上げて飛び退いた。
< 121 / 140 >

この作品をシェア

pagetop