夕陽を映すあなたの瞳
 「こ、こ、心ちゃん?えっと、もう一回おさらいさせて。まず最初に伊吹くんが、伊吹 さらは?って聞いたのよね?」
 「はい。あ、その前に私が、もし子どもが生まれたら、久住 さらにしようかなって言ったんです。そしたら、結婚したら久住じゃなくなるんじゃない?って」
 「ヒーー!それでそのあとに、伊吹 さらは?って言ったの?」
 「はい、そうです」
 「そ、そ、それで?そのあと心ちゃんはなんて?」
 「えー?!なんだっけ。よく覚えてないな」

 心が困ったように言うと、沙良は身を乗り出し、思い出して!と懇願する。

 「え?どうしてそんな…。えっと、確か。そう!伊吹 さらは?って聞かれたから、いいんじゃない?伊吹くんに女の子が生まれたらどうぞって。私がどうぞって言うのも変かって笑って」
 「そしてそのあとに、伊吹 心は?って聞かれたのよね?」
 「そうです。でもあり得ないでしょう?そんなの。奥さんにしてみたら絶対いい気分しませんよね。だって自分の娘に、旦那さんが同級生の名前つけるなんて。だから伊吹くんにも、絶対だめ、考えられないって言ったんです」
 「イヤーー!!」

 沙良は、両手で頬を押さえ、後ろに倒れそうになっている。

 「沙良さん?どうしました?」
 「ちょ、ちょっと待って。深呼吸させて」

 沙良は胸に手を当てて、大きく息を吐く。

 「どうしよう、私、どうすればいい?今すぐ伊吹くんのところに行って慰めてあげたい。あー、まるで昔の私のよう。辛いよね、うん。鈍感な人って、時にこんなにも残酷なのよー」

 演劇でも始まったのかと、心は眉間にシワを寄せる。

 「心ちゃん、伊吹くんに伝えて。陰ながら私はあなたを応援してるって。何かあったらいつでも相談に乗るから、がんばって!って」
 「は?はい…」

 心は、首をひねりつつ頷いた。
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