夕陽を映すあなたの瞳
 ある日の夜。

 仕事をひと通り終え、心は事務所のデスクで業務日誌を打ち込んでいた。

 遅番でまだ残っているのは、心と桑田だけ。

 心はふと、デスクで書類を読んでいる桑田に目を向ける。

 右手に書類を持ち、左手でコーヒーを飲むその薬指には、沙良とお揃いのマリッジリングが光っていた。

 「ぐふっ」

 心が思わずニヤけながら声を漏らすと、気味悪そうに顔を上げた桑田が心の視線に気付き、わざと書類を左手に持ち替える。

 「ああー、見えない!」
 「アホ!見せ物じゃない!」
 「いいじゃないですかー、減るもんじゃなし」
 「お前に見せると減る!」
 「ちぇっ!いいもん。沙良さんに言ってやろー」
 「おまっ、バカ!仕事中にその名前を出すな!」

 言い合っていると、桑田のデスクの電話が鳴る。

 低い声で短くやり取りすると、受話器を置いた桑田が立ち上がった。

 「本部に行ってくる」
 「え?こんな時間から?」
 「ああ。遅くなりそうだから、お前は先に上がってろ」

 そう言うと、スタッフジャンパーを羽織り桑田は出て行った。

 妙に険しい顔つきが、心はなんだか気になった。
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