夕陽を映すあなたの瞳
 次の日。
 事務所に出勤した皆に、朝礼を始めると言った切り、桑田はうつむいて口を閉ざす。

 (どうしたんだろう、桑田さん。目も真っ赤に充血してるし。夕べ寝てないのかな?)

 昨夜本部に行った桑田は、なかなか戻って来ず、言われた通り心は先に職場をあとにしていた。

 (何か大事なお話されたのかな?)

 考えられるとしたら、春に向けてショーの内容をリニューアルしたり、新しい技を考えたり、といったところだろうか。

 だか、それにしては、桑田が見たこともないほど暗い表情なのが腑に落ちない。

 ただならぬ雰囲気に、皆も息を詰めて桑田の次の言葉を待つ。

 やがて、足元に視線を落としていた桑田が、意を決したように顔を上げた。

 「イルカショーについての議論や法改正については、皆も報道で知っていると思う。うちでも、上層部が何度も話し合いを重ねていた。そして結論が出たらしい」

 えっ!と皆が目を見開く。

 イルカショーについての結論、そしてこの桑田の険しい表情…

 悪い予感は的中する。

 「海外の動向、日本での世論も鑑み、ここマリーンワールドでは、いずれイルカショーを廃止することになった」

 空気が凍りつき、誰も動けない。

 「今すぐという話ではない。だが、ショーをリニューアルしたり新しい技を考えることはしない。時期が決まれば、いずれショーチームは解散となる」

 まるで現実に起こっていることではないような気がして、心はぼんやりと床に目を落としていた。
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