夕陽を映すあなたの瞳
 「はい。ココア」
 「ありがとう」

 ソファに座った心は、昂の淹れたココアを両手で握りしめながら味わう。

 「美味しい…」
 「そう。良かった」

 窓の外をじっと見つめる心を、昴は隣に座ったまま優しく見守る。

 心がここに来た目的は、言われなくても昴には分かっていた。

 心は、沈んでいく夕陽を黙って眺めている。

 やがて思い出したように昴を振り返り、照れ笑いを浮かべた。

 「ごめんね、またここに来ちゃって。なんだか伊吹くんのおうちを、展望台みたいにしちゃってるね、私」

 ははっと昴は明るく笑う。

 「いいよ、いつでも来てくれて。久住がそんなふうに思って来てくれると、この部屋も喜ぶよ」
 「ふふっ、伊吹くんはこのお部屋、高過ぎて怖いんだもんね」
 「そう。だから俺なんかより久住の方が、この部屋に好かれてるよ」

 心は微笑んで昴を見つめる。
 優しく自分に微笑み返してくれる昴の目は、暖かい夕陽の色に染まっていた。

 「伊吹くんの目に、夕陽が映ってる。伊吹くんの目も温かいね」

 するとなんの前触れもなく、心の目から涙がごぼれ落ちた。

 「あ、ごめん。なんだろう、なぜだか急に…」

 そう言って慌てて指先で涙を拭う心を、昴はそっと抱きしめた。

 「いいよ。無理しなくて」

 胸の奥に、じーんと温かく響く昴の声。
 心は昴に身を任せ、止めどなく涙を溢れさせる。

 昴は、ただ黙って心を優しく抱きしめていた。
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