夕陽を映すあなたの瞳
 「お帰りなさい!」
 「ただいま」

 玄関で出迎えた心の頬に、昴は優しくキスをする。

 結婚を控え、心は昴のマンションに引っ越してきた。

 そしてもちろん、心は毎日窓からの景色を眺める。

 「夕陽も素敵だけど、星空も本当に綺麗…」

 そうだね、という昴の声は、隣ではなくやや後ろから聞こえてきた。

 「ふふっ、そこが限界なの?もう少し窓に近づいたら、もっと空が良く見えるのに」

 心が昴を振り返って笑う。

 「いや、ここからでも充分良く見えますよ」

 心はもう一度クスッと笑うと、昴の隣に戻った。

 二人でソファに並んで座る。
 ローテーブルには、サラからもらったあのグラスが並んでいた。

 「ちゃんとペアグラスになれたね。良かったねー、ここに引っ越せて」

 心はふふっと微笑みながら、綺麗なグラスでアイスティーを飲む。

 「久住はここに越してきて、毎日俺と一緒にいられることより、景色が見られることの方が嬉しそうだね」
 「うん、そうかも」

 心が真顔で答えると、昴はえっ!とショックを受ける。

 「ふふっ、嘘だよ。伊吹くんと一緒にいられることが何より幸せ。それに、伊吹くんのあったかい目を見てると、夕陽を見ているみたいに落ち着くの」

 昴は一気に顔を赤らめた。

 「そ、そんなストレートに言われると…。俺、慣れてなくて…」
 「え、なーに?伊吹くんが正直に本音を言えって言ったんでしょ?」
 「そ、そうだけど。うん、そうだよな」

 そう言って心をじっと見つめる。

 「でも、一番正直なのは久住の目だよ。何を考えてるのか、すぐ分かる。口で嘘言ってもすぐ分かるからね」
 「え、何よそれー?もう、怒った」
 「ほんと?俺のこと、嫌いになった?」
 「うん、なった」

 昴は心の目をじっと見つめる。

 「嘘だね。俺のこと、好きって気持ちが溢れてる」

 今度は心が真っ赤になる。

 「ちょっ、よくそんな恥ずかしいこと言えるね?」
 「俺が言ってるんじゃないよ。久住の目が言ってる」
 「言ってなーい!もう、本当に嫌いになっちゃうよ?」
 「ごめんって!じゃあ、お互い本当のこと言おう」

 昴は心を優しく見つめる。

 「大好きだよ、久住」

 心も微笑んで昴を見つめた。

 「私も。伊吹くんが大好き」

 窓の外の星空に見守られ、二人はそっとキスをした。
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