夕陽を映すあなたの瞳
 「あー、良かったねー!あんなに美味しいレストランを値段ギリギリまで下げてもらえて。フリードリンクで、しかも割引チケットのプレゼント!あと、オープンテラスも解放してくれるって!絶対みんな喜ぶよ。ねっ?」

 ホテルを出て歩きながら、心は昴の顔を見上げて笑う。

 「ん?ああ、そうだな」

 心の勢いに半分呑まれて、昴は頷いた。

 「早速私、あとでグループにメッセージ送っておくね!いやー、片桐さんがんばってくれたなあ。だって、土曜日の夜だよ?ゴールデンタイムなのに、私達の為にあんなにリーズナブルに貸し切りにしてくれるなんてねー。私、個人的にもひいきにするわ。友達にも紹介しよう!」

 そこまで言って、ふと立ち止まる。

 「ん?どうしたの?」

 昴が心を振り返ると、心は両手で頬を押さえて、大変!と呟いた。

 「私、さっきお会計せずに出て来ちゃった!」
 「え?ああ、それなら大丈夫だよ」
 「大丈夫って?どういうこと?」

 そして心は思い出した。
 途中で昴が席を外したことを。

 「もしかして、伊吹くんが払ってくれたの?私の分まで?」
 「気にすることないよ」
 「えー、気にするよ!待って、今払うね」

 心が財布を取り出そうとすると、昴が手で止めた。

 「本当にいいから。一緒に幹事をやってくれるお礼に。あと、八年ぶりに再会した記念に」

 そう言って、またもやイケメン俳優のような雰囲気で微笑む。

 「…いいの?」

 半ばぼーっとしつつ、心は呟く。

 「もちろん」
 「じゃあ、お言葉に甘えて…。ありがとうございます。ごちそうさまでした」
 「どういたしまして」

 ふふっと、昴は心に笑いかける。

 「その代わりと言ってはアレだけど、幹事の仕事は私が出来る限りがんばるからね!」
 「え、無理しなくていいよ」
 「ううん。伊吹くん、忙しいもんね。私、そんな飛び回ったりしない仕事だから。あ、今思ったんだけど…」
 「うん、何?」

 心は昴に向き合う。

 「伊吹くん、同窓会の当日も大丈夫?もしお仕事あるなら、遠慮せずにそう言ってね」

 昴は、ふっと頬を緩めた。

 「ありがとう、今のところ大丈夫だよ。ただ、準備のやり取りや連絡で、すぐには返事出来ない時もあるかも。海外に行ってると時差もあるし…。返信遅かったらごめんな」
 「ううん、そんなの気にしないで。でも本当に忙しいんだね。身体、気をつけてね」

 心が真剣に言うと、昴は明るく、ありがとう!と笑った。
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