夕陽を映すあなたの瞳
 「さあ、次は今日一番の大技、トレーナーの足をイルカが押し上げて一緒に飛ぶ、ロケットジャンプ!」

 心のセリフに合わせて、ルークとトレーナーの佐伯が水中深く潜る。

 心や他のトレーナーは、右手を挙げてプール中央に観客の注目を促す。

 スピードを上げたルークが、佐伯の足の裏を口先で押しながら空中高く飛び上がったその時…

 (あっ!!)

 心は思わず息を呑んだ。

 (角度が!)

 いつもはアーチを描くように飛び上がり、トレーナーはその頂点で両腕を前に伸ばしてプールに飛び込む。

 だが今は、ほぼ垂直に近い角度でルークと佐伯は飛び上がっている。
 しかも、高さが高い。

 心の隣に立つ桑田が、思わず身を乗り出すのが視界に入った。

 皆で息を詰めて見守る中、佐伯は何とか姿勢を保ちながらプールに飛び込んだ。

 バチン!と水面に身体を打ち付ける、痛烈な音が響いた。

 (佐伯さんっ!)

 客席から、わあーっと歓声と拍手が上がったが、心はひたすら佐伯の姿を目で追う。

 水面に姿を現した佐伯は、なんとかこちらに泳いで来ようとしていた。

 「久住、次はカットでフィナーレだ」

 隣から桑田の声がして、心は頷いた。

 通常ならこのあと、水面に身体を出した佐伯の足をルークが押しながら、プールの客席側ギリギリを猛スピードで泳ぐことになっていた。

 ザバーッと水がプールから溢れ、迫力あるスピードに子ども達も一層手を叩いて喜ぶパフォーマンスだったが、今の佐伯の状態では無理だ。

 「さあ、それではいよいよフィナーレです!イルカ達の息の合ったジャンプを、どうぞご覧ください!」

 心がマイクに向かって明るく歯切れの良い声で言うと、トレーナー達がタイミングを揃えて合図を送る。

 イルカ達は助走をつけ、綺麗に動きを合わせながら宙に飛び上がった。

 たたみかけるように何度も美しくジャンプを披露するイルカ達に、観客は興奮して歓声を上げ、大きな拍手が鳴り響いた。
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