夕陽を映すあなたの瞳
第五章 夕陽に癒やされて
 木曜日の午後。
 心は昴の自宅マンションに向かっていた。

 (えーっと、駅から徒歩3分のタワーマンション…って、あれのこと?!)

 改札を出て前を見ると、ドーンと大きなタワーがそびえ立っている。

 (え、オフィスビルかな?だって、まさかこんなに大きなタワーがマンションだなんて…)

 だが他にそれらしい建物も見当たらず、心はとにかくそのタワーのエントランスに入ってみた。

 ホテルのロビーのような空間を恐る恐る進むと、革張りのソファーで本を読んでいる昴がいた。

 「い、伊吹くん?」

 昴はふと顔を上げて心を見ると、本を閉じて立ち上がり、にこやかにこちらに向かって来る。

 「久住、わざわざ来てもらって悪いな。道、分かったか?迷わなかったか?」
 「あー、うん。道は迷わなかったけど、違う意味で迷った」
 「ん?どういうこと?」

 だって…と、心は声を潜める。

 「こんな所に本当に人が住んでるの?」
 「え、俺、住んでるけど?」
 「住めるの?オフィスのフロアがあるだけじゃないの?」
 「いや、普通の居住スペースだよ」
 「本当に?」

 まだ疑わしそうに辺りを見回す心に、昴は、とにかく部屋へ行こうとエレベーターに向かった。
< 27 / 140 >

この作品をシェア

pagetop