夕陽を映すあなたの瞳
 「Hello? Oh ! hi…good, and you?」

 ドアの向こうからかすかに聞こえてくる昴の声に、英語なんだ、と感心しながら心はコーヒーを飲む。

 「What?! well…how many days?…OK. I got it. …yes, see ya」

 小さくため息が聞こえたあと、昴が戻ってきた。

 「お仕事の電話?大丈夫?」

 心が聞くと、ああ、うん、と煮え切らない返事をする。

 「久住、悪い。急に明日からサンフランシスコに出張に行くことになったんだ」
 「そうなんだ!明日って、急だね」
 「うん、まあ、いつものことだけどね。それで、10日間ほどかかりそうなんだけど…。大丈夫かな?」
 「大丈夫って?もしかして同窓会のこと?」
 「ああ」

 心配そうな昴に、心は明るく笑って言う。

 「大丈夫だって!ぜんっぜん気にしないで。それに動画も作ってくれたし、あとはもうやることないよ」
 「そうだけど…。帰ってくるのは同窓会の直前になるかもしれないし」
 「だから気にしないでって!大事なお仕事なんでしょ?そっちに集中してね」
 「ああ、悪いな。何かあったらいつでも連絡してくれ。すぐには返信出来なくても、必ず返すから」
 「うん、分かった。ねえ、それより…」

 視線を外して、心が首をかしげる。

 「ん?なに?」
 「うん、いつもそんなに急に言われるの?明日から10日間、とか」
 「まあ、いつもではないけど、時々ね」
 「ふうん、大変だね。荷造りだって急いでしなきゃいけないし、ゴミ出しとか、考えるとなんか色々大変そう…」

 ははっと昴は笑う。

 「確かにね。ゴミは、このマンションいつでも出せるからいいんだけど、困るのは冷蔵庫の中身」

 あー、そうだね!と心は頷く。

 「肉は冷凍出来るけど、牛乳や卵はね。結局いつもダメにしちゃう」

 なるほど、と少し考えてから、心は昴に、冷蔵庫の中、見てもいい?と聞いた。
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