夕陽を映すあなたの瞳
 「うわー、今日も素敵な景色!」

 愛理達と別れたあと、ふと思い立って心は昴のマンションに向かった。

 集合ポストから手紙を取り出し、カードキーをかざしてエレベーターに乗る。

 お邪魔しまーす…と恐る恐る部屋に入ると、あの日と同じ夕焼けが目に飛び込んできた。

 「なんて綺麗…」

 鞄を床に置き、窓際に立ち尽くす。
 暖かい光が、今日も全身を丸ごと包み込んでくれる。

 (癒やされるなあ、そして救われる)

 言葉はなくても、自然はこんなにも心を満たしてくれる。

 (人と人は、時には言葉で傷つけ合ってしまうけれど、自然は何も言わずに癒やしてくれる。イルカ達もそう。あの子達とは、言葉がなくても通じ合える。それに、私はいつもあの子達に癒やされて救われている)

 そんなことを思いながら、心はただひたすら、沈みゆく夕陽を見つめていた。

 やがて水平線にスーッと吸い込まれるように夕陽が見えなくなると、辺りは一気に暗くなり、急に気温も下がったように感じる。

 心はようやく窓のそばを離れた。
 ダイニングテーブルの真ん中にメモが置かれていて、久住へ、という文字が目に入る。

 心は手に取って読んでみた。

 『久住へ
 来てくれてありがとう!
 心ゆくまで夕陽を眺めていって』

 そして小さなクッキーの包みと、インスタントのカプチーノのカップが置かれていた。

 「ふふ、これ読む前に、もう夕陽眺めちゃった」

 きっと本当は、留守番なんて頼む必要はなかったのだろう。
 昴は心に、ただこの景色を見せてくれようとしたのだ。

 昴の気遣いに嬉しくなり、心はもう一度メモを読んで微笑んだ。
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