夕陽を映すあなたの瞳
 「いえーい!今日は朝まで盛り上がるぜー!」

 カラオケに場所を移し、慎也が早速マイクを握って歌い出す。

 心は、同窓会を無事に終えてほっとしながら、慎也の歌を手拍子で盛り上げていた。

 「久住、時間大丈夫か?明日も仕事じゃないのか?」

 隣から昴が、耳元で大きく話しかけてくる。

 「うん、明日は遅番だから大丈夫。終電で帰るね」
 「分かった。じゃあその時に俺も一緒に出るよ」

 二人で、二次会の参加費を計算しながら皆からお金を受け取っているうちに、終電の時間が迫ってきた。

 心は愛理にお金を預け、皆に挨拶すると、昴と一緒にお店を出た。

 「はー、終わったねー」

 幹事の役目から解放され、心は大きく両腕を伸ばして深呼吸する。

 「お疲れ様。本当に色々ありがとうな、久住」
 「伊吹くんこそ、ありがとう。動画、みんな喜んでくれてたね」
 「ああ、良かったよ。って、おい、大丈夫か?」

 今頃酔いが回ってきたらしい、心の足がおぼつかなくなる。

 「んー、ほっとしたら急に眠くなってきた」

 眠気と酔いでふらふらしながら、なんとか駅に辿り着く。

 「あれ?久住、家どこだっけ?終電って何分?」

 電光掲示板を見上げて、昴が声をかける。

 「うんとね、0時5分」
 「ん?そんな時間の電車ないぞ?」
 「えー?そんなはずないよ。アプリで検索したもん」
 「…久住、それって、ちゃんと土曜日のダイヤか?」
 「え、土曜日?…じゃなかったかも!」
 「やっぱり。それ、平日ダイヤだ。今日の終電はもう終わってる」
 「ええー?!どうしよう」

 心が両手で頬を押さえていると、昴が踵を返して短く言う。

 「タクシー使おう」
 「タクシー?!そんな、ここから家まで?え、どんな金額になっちゃう?」
 「いいから。ほら、おいで」

 昴はふらつく心を支えながら、停まっていたタクシーに乗り込む。

 「えーっと、久住、うちどこだ?」
 「はい!グランオーシャンレジデンスでございます」
 「は?それ俺のうちだろ。そうじゃなくて、久住のマンション。住所は?」
 「港区にある、おっきなタワーマンションです。駅から徒歩3分、迷うこともありません」

 すると運転手が、あー、あそこねと話しかけてくる。

 「グランオーシャンなら良く知ってるよ。じゃ、出発するよー」
 「ちょちょ、ちょっと待ってください!」

 慌てて昴が運転手を止める。

 「久住、お前のうちは?どこだ?っておい、久住!起きろ!」

 解放感と疲れ、そして酔いと眠気に襲われた心は、どんなに揺すっても起きる気配がない。

 はあ、とため息をつき、昴は運転手に、やっぱりそこに向かってくださいと告げた。
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