夕陽を映すあなたの瞳
 「美味しいねー、このクロワッサン。バターがたっぷりだね」
 「そうだね」
 「外はサクサクッとしてて、中はしっとりふわふわ。絶品だね」
 「そうだね」

 心が宇宙人なら、昴はロボットだろう。

 思考回路を絶ち、ひたすら笑顔で同じセリフを言う。

 「朝から凄く贅沢な気分!仕事もがんばれそう」
 「そうだね」
 「でも、夕べはごめんね。ベッド使わせてもらっちゃって」

 ようやく人間らしさを取り戻し、昴は、お?と心を見る。

 「夕べのこと、覚えてるの?」
 「うん、覚えてるよ。私ね、絶対歯磨きしないと寝られないの。ちゃんと磨いたでしょ?」
 「そうだね」

 またロボットに戻ってしまう。

 「愛理の家に泊まらせてもらった時も、感心されたの。心、ベロンベロンなのに、ちゃんと歯磨きするんだねーって。多分、意識なくても磨けるんじゃないかな。凄いでしょ?」
 「そうだね」
 「さてと!そろそろ帰るね。シャワー浴びてから仕事行きたいし。伊吹くん、泊まらせてくれてありがとう!お世話になりました」
 「え?あ、ああ。いいけど」

 昴は、人間に戻って考える。

 「車で送って行くよ。うちどこ?」
 「え、いいの?」
 「うん。住所教えてくれたら」

 それが一番の難関だと思っていると、心はあっさり住所を口にする。

 (よ、ようやく教えてくれた!)

 もはや感動すら覚える。
 昴は、頭の中にしっかり記憶した。
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