夕陽を映すあなたの瞳
 それから半月経った頃。

 心はいつものようにイルカショーのステージに立っていた。

 佐伯は、ロケットジャンプ以外の技は全て復帰しており、この日も心と同じようにイルカ達とパフォーマンスを披露していた。

 客席からの歓声や拍手に応え、心も笑顔でMCをする。

 そして最後の大技、ロケットジャンプを紹介しようとして、ふと言葉を止めた。

 本来なら、ルークの前に桑田が立ち、アイコンタクトを取る時間だったが、佐伯がルークの前から動かない。

 じっとルークに何かを語りかけるように見つめていた。

 心は、隣の桑田を見る。
 すると桑田は、心に大きく頷いてみせた。

 意を決して、心は息を吸い込む。

 「さあ、それではいよいよ今日一番の大技、トレーナーの足をイルカが押し上げて一緒に飛ぶロケットジャンプです!トレーナーの佐伯とルークの、息の合ったパフォーマンスにどうぞご注目ください!」

 大きく響く心のセリフにかぶせるように、佐伯がステージを蹴った。

 ルークと一緒に、水中深くに潜って行く。

 (深い…佐伯さん!)

 右手を挙げて、祈るように心達が見守る中、ルークと佐伯は勢いよく宙に飛び出した。

 (高い!)

 だが、軌跡は綺麗なアーチを描いている。

 頂点でふっと身体から力を抜くと、佐伯は両腕を伸ばして軽く前に身を投げた。

 パシャ…とわずかな音と共に、佐伯の姿は水中に消える。

 わあ!と歓声が上がり、思わず心は涙ぐんだ。

 (凄い、佐伯さん。完璧!)

 隣に立つ桑田も、何度も頷いていた。
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