夕陽を映すあなたの瞳
 「ルーク!凄かったよー、えらいよ!」

 ショーが終わり、ショープールのゲートを開けて展示プールにイルカ達を誘導してから、心はルークの前にしゃがみこんだ。

 「がんばったねー、ちゃんと佐伯さんと息を合わせてたね。かっこよかったよ!さすがはルークだね」

 体をなでながら、声をかける。

 (良かった、本当に良かった。佐伯さんもルークも完全復活だね)

 ふふっと心が微笑んだ時、ふいに「久住」と後ろから声がした。

 「えっ?」

 心は立ち上がって、声のした方に目を向ける。

 階段の下、客席へと続く格子の扉の向こうに、昴が立っていた。

 「え、ええ?伊吹くん?」

 驚いて目を見張る心に、ちょっと気まずそうな笑顔で昴が頷く。

 「ごめん、仕事中なのに声かけたりして」
 「ううん。ちょっと待ってて」

 そう言うと心は階段を下り、扉を開けて昴に近づいた。
 が、ふと自分の格好に目をやり、うつむいて一歩下がる。

 「今日、仕事もなくて暇でさ。思い立って来てみたんだ。イルカのショー凄いなーって感心してたら、久住がいてびっくりしたよ」
 「あ、そ、そう」

 うつむいたままの心の顔を昴が覗き込む。

 「どうかした?久住」
 「あ!近づかない方がいいよ」
 「ん?なんで?」
 「その、魚臭いし、私、服濡れてるし…。伊吹くんのお洋服汚しちゃったら大変」
 「へ?」

 なんだ、そんなこと?と昴は、明るく言う。

 「いや、本当に。臭い移っちゃうよ」
 「何言ってんの。久住、めちゃくちゃかっこよかったよ!俺、感動してさ。あそこにいるのは、俺の知ってる久住だぞって周りの人に言いたくなった。もう今は抱きつきたいくらい」
 「は?!やめて、なんてこと言うのよ。来ないでよ、触らないで!」

 両手で制し、心は後ずさる。

 「ええー?!なんか傷つくなあ」
 「じゃ、じゃあ、私、もう行かなくちゃ」
 「ああ。ごめんな、呼び止めて」

 そそくさとその場を去ろうとすると、久住、ともう一度呼ばれた。

 「今日何時上がり?」
 「え、5時だけど」
 「じゃあ、待っててもいい?終わったら連絡して。じゃあね!」

 え、いや、ちょっと…と呼び止める声も空しく、昴は颯爽と去って行った。
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