夕陽を映すあなたの瞳
 「お疲れ様でしたー!」

 オフィスを出て着替えたあと、心はスマートフォンを片手に考え込む。

 (伊吹くん、まだ待ってるのかな。待ちくたびれて帰ってくれてないかな)

 そう思いつつメッセージを確認すると、
 "出口のショップにいるね"
 と、昴から送られていた。

 (はあー、行くしかないか)

 ため息をついてから、心は歩き出した。

 「伊吹くん」

 お土産コーナーで、イルカのぬいぐるみを手にしていた昴に声をかけると、顔を上げてにっこりと心に微笑む。

 「久住、お疲れ様」
 「伊吹くん、お土産買うの?」
 「うん。もうすっかりイルカにはまってさ。何がいいかなー。とりあえずこの図鑑は買うんだけど、この小さいぬいぐるみもかわいくてさ。でも男が持つにはかわいすぎるか。久住、何かオススメある?」

 心は、隣の文具コーナーで、クリップの部分がイルカになっているボールペンを手に取った。

 「これは?キャラっぽくなくて、色もシルバーだから、男の人でも持ちやすいかも。ボールペンなら実用的だしね」
 「お、いいね!うん、それにするよ」

 昴は、図鑑とボールペンを手にレジへ向かうと、満足げに袋を持って戻って来た。

 「お待たせ。おかげでいい物買えたよ。久住、ご飯食べに行かない?それとも何か予定あるかな?」
 「ううん。ないよ」
 「そっか。じゃあどこか行きたいところある?俺、今日車で来たから、どこでもいいよ」

 ずっとうつむいていた心は、ようやく顔を上げて昴に言った。

 「伊吹くん、私、夕陽を見たい」
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