夕陽を映すあなたの瞳
 「伊吹くん」
 「ん?何?」
 「あの、あのね。上手く話せないかもしれないけど、聞いてくれる?私、言葉で伝えるの苦手だから、ちゃんと言えないかもしれないけど…」
 「大丈夫だよ。話して」

 昴の優しい口調に助けられ、心は口を開いた。

 「イルカショーってね、非難されることが多いの。動物虐待じゃないか、とか、人間のエゴだ、とか。既にイルカの飼育が禁止されている国もある。それに日本のイルカの追い込み漁が海外でドキュメンタリー映画になったのは、伊吹くんなら知ってるでしょう?」

 昴は、黙って頷く。

 「そして日本でも、ついに法が改正される。イルカショーは、いずれなくなると思う」

 心の目から涙がこぼれ落ちた。

 「私のやってることって、そんなに酷いことなのかな?私の大好きなこの仕事は、非難されることなのかな?私が誇りに思うこの仕事は、やってはいけないことなのかな?あの子達は…、イルカ達は私といたら可哀想なのかな?私はあの子達を虐待してるのかな?私はあの子達が大好きなのに、どうして…」

 言葉を続けられず、心はポロポロと涙をこぼす。

 昴は思わず心を抱きしめた。

 「分かってる。私がこんなこと言っても、伊吹くん困るだけだよね?だって、国が決めることだもん。世界が決めることだもん。仕方ないよね。従うしかないよね」

 肩を震わせて泣き続ける心を、昴はギュッと力を込めて強く胸に抱く。

 何も言わずに、ひたすら心の頭をなで、昴は心が落ち着くまで、ずっと抱きしめていた。
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