夕陽を映すあなたの瞳
 「久住、久住?」

 誰かの声が聞こえ、心はゆっくり目を開ける。

 「久住!気が付いたか?良かった…」
 「桑田さん…?」

 心配そうに覗き込んでいる桑田に、状況が分からず心は困惑する。

 「あの、桑田さんどうかしたんですか?」
 「俺がどうかしたんじゃない。お前だよ!久住」

 え、私?と思いながら、周りを見る。
 どうやら病院のベッドに寝かされているらしかった。
 それになぜか、やけに口の中がしょっぱい。

 なんだろう?と思っていると、再び桑田が心配そうに話しかける。

 「覚えてないか?久住、プールサイドの掃除してて、立ちくらみ起こしたらしい」
 「あ!そう言えば…」

 ゆっくりと記憶を辿る。

 「あの時、暑いなー、ドリンク買わなきゃなーって思ってて。バケツで水を汲んで立ち上がったら、目の前が真っ白になって」
 「そう。それでお前、倒れたんだ。しかもプールの中に落ちた」
 「ええー?!」

 思わず目を見開く。

 「プールの水を汲んで立ち上がったんだろ?そこで倒れたから、そのままプールに落ちたんだ。それにあの時、お前の近くに誰もいなかった。お前がプールに沈んでいくのを誰も気付けなかったんだ」

 心は青ざめた。

 「じゃ、じゃあ、どうやって私、ここに?どうして助かったんですか?」

 ルーク達だ、と桑田が短く言う。

 「やたらとプールが騒がしいから、見に行ったんだ。そしたら、イルカ達が集まってみんなで大きな声で鳴いてた。慌てて近寄ったら、ルークの背中にぐったりしたお前がいた」

 心は、息を呑んで目を見張る。

 「…ルークが、私を?」
 「ああ、そうだ。ルークが沈んでいくお前を背中に乗せて水面に上げたんだ。そしてイルカ達みんなで助けを呼んだ」

 心の目から涙がこぼれる。

 「ルーク、みんな…。ありがとう」
 「命の恩人だな。あー、人じゃないから恩イルカか?」

 桑田の言葉にふふっと笑い、そしてまた泣く。

 「とにかく良かった」

 涙を拭う心の頭を、桑田がポンとなでた。
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