夕陽を映すあなたの瞳
 「さあ、どうぞ。入って」
 「は、はい。お邪魔します」

 心はソワソワしながら玄関を入る。

 病院を出るなり、沙良は心に、うちに来てと言ったのだった。

 「う、うちというのは、その…」
 「まあ、厳密に言うと桑田の部屋ね」
 「ええー?!そ、そんなの無理です!ダメです!行けません!」

 すると沙良は、おかしそうに笑い出す。

 「うふふ!心ちゃん、想像してた通りでおもしろい。あのね、彼が私に、あなたを部屋に連れて来いって言ったのよ」
 「え、桑田さんが?」
 「そう。あなたがひとり暮らしの部屋に帰ったあと、何かあったら大変だからって。自分は仕事だから、代わりに私が今日1日、あなたのそばについているようにって頼まれたのよ」

 心は驚いて目をしばたかせる。

 「く、桑田さんが、そんなことを?」
 「そうなの。だから申し訳ないけど、今日は私につき合ってもらえるかしら?」

 そうして心は沙良について、桑田の部屋にやって来たのだった。
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