夕陽を映すあなたの瞳
 それからも沙良は、とにかく心とおしゃべりしてみたかったのだと嬉しそうに話し続ける。

 途中で美味しいパスタとスープを作ってくれ、食べ終わるとまたおしゃべりを楽しむ。

 「沙良さんと桑田さん、お二人のことも聞きたいなー」

 紅茶を飲みながら、今度は心が聞いてみる。

 「お二人の出会いは?どこだったんですか?」
 「えー、私達?やだ、なんか恥ずかしい」
 「聞きたーい!少しだけでも、ね?」

 すると沙良は、じゃあ彼にはナイショね?と念を押す。

 「うんうん。黙ってますから」

 心は身を乗り出して、目を輝かせる。

 「もう、心ちゃん。そんな前のめりにならなくても…。別に普通よ?そんな劇的な出会いでもなくてね。私、レポーターの仕事をしていた時に、マリーンワールドに取材に行ったの。それが始まり」
 「えっ?!沙良さん、テレビに出てる人なんですか?どうりで!凄くお綺麗ですもんね」
 「あら、そんな。ありがとう!でも昔の話よ?しかも少しだけ。あの時、モデルとかレポーターとか、そういう仕事をちょこちょこしてたの。もう8年も前なんだけどね。それである日、テレビの情報番組で紹介するのに、マリーンワールドへ行ったの。で、イルカショーのレポートしてたら、いきなり彼に怒られたのよ」
 「え、彼って、桑田さんですか?」
 「そう」

 当時を思い出したのか、沙良は少し口を尖らせる。

 「リハーサルしてたら、もういきなりダメ出しの嵐よ。靴の裏をちゃんと消毒しろ!そんな長い爪でイルカに触るな!長い髪は束ねろ!イルカの目や口に入るだろ!あとは、なんだっけ。そうそう!ポールペン落としちゃったら飛んで来て怒られた。プールに落ちてイルカが飲み込んだらどうする?!って」

 ひえー、と心は両手で頬を押さえる。

 「く、桑田さん。初対面の綺麗なお姉さんになんてことを…」
 「うふふ、もうね、周りのテレビクルーも怯えてたわよ。あそこの取材は2度と行かない、なんて言って」
 「あああ…、大事な取材のお話がー。せっかくのテレビ放送がー」
 「でしょ?だから私もね、終わったあと彼に説教しちゃったのよ。確かにあなたのおっしゃることは正しいです。私だって事前に教えていただけたら、髪は束ねて爪は切って、落とし物もしないように手ぶらでレポートしました。これからは、打ち合わせの段階で教えてください。私も、素晴らしいこの場所を多くの方に知っていただきたいと思って仕事に臨んでいます。私を敵視しないで、お互い協力して、かわいいイルカ達を日本中に紹介しましょうって」

 わー!と心は感心した。

 「沙良さん、なんか、かっこいい!」
 「あら、そう?ふふふ。でも彼にそんな口きいたのは、私くらいだったみたいね。彼、ポカーンとしてた。年下の小娘に生意気なこと言われて、ムッとするだろうなって思ってたら、どうやらそこも通り越しちゃったみたいで」
 「なるほどー!それでこう、目が覚めたというか、恋に落ちちゃったんですね、桑田さん」

 さあねー?どうなのかしらね?と、沙良はまた微笑んだ。
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