夕陽を映すあなたの瞳
 「ねえ、心ちゃん」

 やがて戻ってきた沙良とまた紅茶を飲んでいると、しばらくしてから沙良が心に顔を寄せてきた。

 「心ちゃんの斜め後ろにさ、イケメンのビジネスマンと外国人女性がいてね」

 え…と心は、目を泳がせる。

 「なんか、英語でペラペラーって話してるの。かっこいいわー。ね、チラッと心ちゃんも見てみてよ」
 「え?いや、いいですよー」
 「えー、心ちゃん、イケメンに興味ないの?え、どういう人が好みなの?」
 「私、特に好みとかないんです。誰かの恋の話を聞くのは好きですけど、私自身は恋愛に興味なくて彼氏も別にいらなくて」
 「やだ、あの人と同じねー。彼も最初はイルカしか眼中になくてさ」
 「え、桑田さんも?」

 心は思わず身を乗り出す。

 「でも、最初の出会いで沙良さんに説教されて恋に落ちたんじゃ?」
 「うーん、それがね。確かにそのあと二人で会うようになったのよ。でも、私はつき合ってるつもりだったけど、彼にとっては単なる、んー、友達感覚だったのかな?イルカの話ばーっかり!私が説教した時、こいつとならイルカの話が出来る!って思ったんだって。だから彼女じゃなくて、イルカ友達。イル友よ」
 「イ、イル友ー?!」

 心は斬新な呼び方に驚いて笑い出す。

 「沙良さん、本当におかしい!」
 「ちっともおかしくないわよー。だって、本当に私よりイルカのことばっかり。私とイルカ、どっちが大事なのよーって、もう本気でイルカに嫉妬しちゃったのよ」
 「でも、そこからちゃんと彼女になったんですよね?」
 「そう。時間かかったわよー。で、彼女になってからも結婚の話になるまでこれまた長くて」
 「そっか。だってお二人の出会いって、えっと…6年前でしたっけ?」
 「8年前」
 「ひゃー!そんなに?凄い、沙良さん。けなげ!」

 ワイワイと話は尽きなかったが、入店してから既にかなりの時間が経っていた。
 そろそろ出なきゃね、と二人は立ち上がる。

 レジで会計を済ませると、心は昴達のテーブルに目を向けた。

 すると、こちらを見ていた昴が手を振り、サラも、バーイ!ココ!と声をかけてくる。

 心は、隣で目を丸くする沙良の視線を感じつつ、二人に半笑いで手を振った。

 「なーにー?心ちゃんの知り合いだったの?」

 お店を出るなり、沙良に問い詰められる。

 「え、えっと、あの人は、その」
 「分かった。とにかくもう一軒行こう!」

 心は沙良に手を引かれ、また別のカフェに連れて行かれたのだった。
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