夕陽を映すあなたの瞳
 7月に入ったある日。
 心は仕事を終えた夜に、昴に電話をかけた。

 「久住?久しぶり!」
 「うん、伊吹くん元気だった?」
 「ああ元気。そうだ!サラから聞いたよ。久住が部屋に遊びに来てくれたって。凄く楽しかったって言ってたよ。ありがとうな」
 「ううん。私こそ楽しくて…」

 そして心は、本田さんの話を思い出し、ククッと笑いを堪える。

 「ん?どうした?」
 「あ、いえいえ、なんでもないの」

 わざとらしく咳払いをして笑いを収める。

 「それで、今日はどうしたの?何かあった?」
 「あ!そうなの。忘れるところだった。えっとね、サラに日本の花火を見せてあげたいなって思ってるの」
 「花火?」
 「うん。この間ショッピングモールで、サラが飾ってあった浴衣をじっと見ててね。花火大会に着て行ったりするんだよって言ったら、楽しそう!って」
 「へえー、なるほど。花火なら、うちからもよく見えるよ」

 ええ?!と、心は驚く。

 「海の方で上がる花火。なんだったかなー、毎年夏休みが始まる頃にあるんだ。その花火大会なら、うちから見えるよ」
 「そうなの?!じゃあ、サラと一緒に伊吹くんのうちから見てもいい?」
 「もちろん!えーっと、日程はいつだったかな」

 心は、ショッピングモールで見た花火大会の一覧を思い出す。

 「確か、7月20日だったと思う」
 「あー、そうそう。毎年その日だった気がする」
 「じゃあ、サラにも声かけてみよう!」
 「ああ、そうだな」

 そして心は少し考えてから昴に提案してみた。

 「あのね、伊吹くん。実はサラにプレゼントしたいものがあって…」
 「ん?何?」
 「うん、あの。もう一度この間のショッピングモールに連れて行ってもらえないかな?」

 少し間を置いたあと、昴は、もちろん!と答えた。
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