夕陽を映すあなたの瞳
第十六章 昴の戸惑い
 それから半月が経った頃…。

 いつものように会社に出勤した昴は、ひっくり返ったように大騒ぎになっているオフィスに、何事かと驚く。

 すると、入り口で戸惑っている昴を見つけた上司が、伊吹!と大きな声を出した。

 周りの皆にも一斉に注目され、昴は、何かやってしまったのかと青ざめる。

 「伊吹!待ってたんだ。ちょっと来い!早く!」
 「は、はい」

 ゴクッと唾を飲み込み、意を決して上司のデスクに近づく。

 「お前、アメリカのロイヤルローズカンパニーのCEOと知り合いなのか?」
 「……………は?」

 思いもよらない言葉に、昴は固まる。

 「ロイヤルローズカンパニーって、アメリカの有名企業上位の、あの会社のことですか?」
 「そうだ。洋服や雑貨、宝石、ありとあらゆるブランドを生み出し、世界中にデパートを展開している流通業界のトップだ」
 「いえ、あの。なぜ私がそんな大企業のCEOと知り合いなんでしょうか?」
 「分からん。だから直接お前に聞いている」
 「……………はあ」

 ますます訳が分からない。

 ロイヤルローズカンパニーとは、直接取り引きしたことはない。
 だが、子会社のそのまた関連会社として、日本に小さく販売部門の会社があり、そことなら少し接点がある。

 先日まで日本に出向していたサラも、その子会社に勤めており、昴も何度かアメリカ出張で訪れていた。

 とは言っても、その子会社からロイヤルローズカンパニーまでは、さらにいくつかの会社を辿らなければならないほど、遠い存在だ。

 ましてやそこのCEOと、面識などあるはずもない。

 「あの、なぜそのようなお話になったのでしょうか?私には全く身に覚えがないのですが…」
 「そうだよなあ。俺もそう言ったんだが、上の人達がお前の名前を出してきたんだ。なんでもCEOの孫娘が、お前に良くしてもらったとかで。それを聞いたCEOが、うちと提携しないかと言ってきたらしい。もう、上層部は大騒ぎだぞ。伊吹 昴は、どこの部署の誰だ?一体何をどうやったんだ?って」

 昴は、もはや話のスケールにおののいて、上手く言葉が出て来ない。

 「わ、私は、何も、何もしておりません!」

 まるで無実の罪でも晴らすようなセリフで、ひたすら上司に訴える。

 「そうか。じゃあやっぱり人違いか何かだろうな。その、サラとかいうCEOの孫の」

 えっ?と昴は、小さく呟く。

 「サ、サラ?!」
 「お?なんだお前。やっぱり知り合いだったのか?」
 「サラって、あのサラですか?」
 「え?知らん。どのサラだ?」
 「ええーー?!あのサラがー?!」
 「だから、どのサラだー!!」

 昴と上司の叫び合いは、そのあともしばらく続いた。
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