世界くんの想うツボ〜年下ドS御曹司との甘い恋の攻防戦〜
「……せか……い」

俺の名前を呼びながら、大きく呼吸をしている梅子の身体から力が抜けるのが分かった。

「ん?梅子さん?」

梅子はとろんとした瞳をこちらに向けたのを最後にゆっくりと瞼を閉じる。

「え?おい、嘘だろ……マジで……?」

そして耳を澄ませばすぐに可愛い寝息が聞こえてきた。

「ねぇ、気持ちよすぎて寝てくれんのは嬉しいけど……このあと……残された俺はどうしたらいいんだよっ……」

俺は何度か深呼吸しながら下腹部の熱をどうにか落ち着かせようとするが、裸の梅子をみていると熱が一向におさまりそうもない。俺は脱がしたスウェットを梅子に着せなおすと肩まで毛布をかけた。

「手かかりますね。マジでどっちが年上かわかんねーじゃん」


──ブルッ

その時ズボンのポケットに入れっぱなしのスマホが震えた。

(なんだ?こんな夜中に)

俺はポケットからスマホを引きずり出すとメッセージを確認する。

──『世界、あの件パパに話したから』

「は?心奈のヤツ何勝手に……」

俺はとても返信する気にもなれずに目覚ましだけかけると、スマホをベッド下に放り投げた。隣の梅子はいつもより幼い顔ですやすやと眠っている。

「……もう待ても限界こえてんすけど」

自嘲気味に呟いてから自分もスウェットをかぶると隣に横向きに寝転ぶ。そっと抱きしめれば、梅子の甘い匂いと梅子の体温が伝染してきて一気に眠気がやってくる。

「……梅子さん……あったかいすね」

「……ん……世界……」

閉じかけた瞳を再度開ければ梅子の唇がわずかに動いている。

「……き……だよ」

「ん?梅子さん?……もっかい言って?」

「……世界くん……だい、すき……」

俺は掌で顔を覆うと仰向けにごろんと寝転びなおした。

「マジで反則……」

女にこんなに転がされたことなんて今まで一度もない。遊びの恋愛においてもいつも主導権を握るのは俺だった。梅子との本気の恋愛は俺自身、感じることも想うことも何もかも初めてだらけだ。

(結局……俺のが転がされてんだよな)

「梅子さんの想うツボじゃん……」

でも相手が俺の運命の女である梅子ならばそれも仕方ないのかもしれない。それにもしかしたらあの日、俺は梅子にまた会えるのが分かってて無意識に《《あの約束》》をしたのかもしれない。

「……てゆうか、これいつ収まんのっ!」

俺は十年前の思い出をさっとかき消すと、熱を帯び続けている下半身と戦いながら梅子の静かな呼吸にため息を重ねた。
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