世界くんの想うツボ〜年下ドS御曹司との甘い恋の攻防戦〜
──キーンコーンカーンコーン♪キーンコーンカーンコーン♪

「ん……ええっと……」

私は目を閉じたまま毛布から右手だけ出すと、目覚まし時計の方へと手を伸ばす。

(久しぶりにお父さんとあの子の夢みたな……)

ふわりと頬に柔らかい感触がして私は慌てて両目をこじ開けた。

「……え……?」

目の前には世界が子供みたいな顔をこちらにむけたまま、長いまつげを揺らしている。

「……そ、うだ……私……昨日……世界くんと?」

記憶の端を隅から隅まで探るが最後までどころか前半あたりまでしか記憶がない。

「あれ……えっと」

身だしなみを確認すればスウェットは来ているが下着がベッドサイドに落ちているのが見えた。

「あ、私……やっぱ世界くんと」

「してないっすよ」

見れば世界が大きなあくびをしながら、切れ長の瞳をきゅっと細めた。

「え?だって……」

「あのね、セックスご無沙汰のクセに挿れられた感覚ないでしょーが。気持ちよくなってくれるのはいいんすけど、意識とばさないでよ。俺があのあとどんだけ我慢したと思ってんのっ」

「えぇっ!?」

「えぇっ!?じゃないっすからね、マジで!」

(いくらご無沙汰だったからとはいえ……まさか……意識飛ばすなんて……な、なんたる切腹案件……)

世界が、目の前でスウェットをぽいと脱ぎ捨てるとワイシャツを羽織る。スーツを着ている時は分かりにくかったが、腹筋が割れていてちょうどよく引き締まった体をしている。

「ちょっと着替えるなら見えないとこで……」

思わず顔をそむけた私に世界が不満げな声を出した。

「は?何?もうマジでスーツ着て会社モードにしとかないと朝から襲いそうなんで!」

世界は口を尖らせたまま洗面所へスタスタと向かって行く。

「もう何よ……そんな拗ねなくたって……」

それでも朝起きて直ぐに誰かが隣にいることにこんなに安心したことはあっただろうか。世界と迎えた朝はいつもよりもずっとまぶしくて、朝の光がこんなにも愛おしく思う。

「……朝ごはん作ろっかな……世界くん卵スープ飲むかな……」

朝食など課長になってから作ったことは一度もない。でも世界がいるなら何か栄養のあるものを作ってあげたいと自然に思う。

(私自身も困ったものよね……)

もう恋愛なんてとどこかで諦めていた以前の私にはきっと戻れない。
目の前のこの恋を大事に温めて二人で育てていきたいから。

私はさっと着替えると割烹着を羽織りコンロに火を点けた。
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