世界くんの想うツボ〜年下ドS御曹司との甘い恋の攻防戦〜
パーテーションから出て、デスクに戻りパソコンをつければ隣の世界は黙々と見積もりを作成している。そのスピードと正確さはまだ1ヶ月足らずとは思えない。

私の視線に気づいた世界が唇を持ち上げた。

「何?見惚れてるんすか?」

「違うわよっ、ただ……成長してるなって」

若い世界は吸収力も早い。元からもってる性質もあるだろうが世界は、物事の全体を見る力がある。見積りの粗利益率も現場に合わせて上手に調整し、相手企業も決して損させない絶妙なラインを突いてくる。

「それいうなら梅子さんもでしょ?」

「え?私?」

首を捻る私を見ながら世界がデスク後ろのパーテーションに視線だけ向けた。

「さっきの会話うすく聞こえてましたけど、梅子さんも成長したじゃん。頑張りすぎは知らず知らず他の人にもプレッシャーになるってこと。あと、仕事で何かあったら課全員でカバーする、できる雰囲気が大事ってこと」

「えと……それは……」

それに気づけたのは世界のおかげだ。昨日、施工を手伝うことができずに指をくわえて見ていた私はよく分かった。

いくら完璧に仕事をこなしたくても、誰かのミスをカバーしたくても私だってなんでもできるわけじゃない。また完璧に仕事をしたいと自身に課すことで、他の人の負担になることも今さらながら気づいた。

できないことがあってもいい。
ミスしたっていい。
その時は皆でカバーすればいいのだから。

「俺のおかげですかねー。梅子さんもできないことあった方が可愛いですし、完璧もいいっすけど疲れるしさ、何かあったとき気軽に助け合える方がいいでしょ?仕事も恋もさ」

「……ありがとう」

「どういたしまして」

世界が唇を持ち上げた。


──プルルルップルルルッ

「あ、れ……?」

光った内線をみて私は目を丸くした。

「え?」

世界の顔がすぐに曇る。
内線番号は001番。陶山社長からだ。

今まで入社してから陶山社長から直接内線が来たことは一度もない。課長昇格の際の辞令発表の合間に少し話したことがあるくらいだ。

「俺出る」


「いや……私のとこにかかってきてるから……」


世界が伸ばした掌を遮るようにして、私は内線の受話器をあげた。
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