世界くんの想うツボ〜年下ドS御曹司との甘い恋の攻防戦〜
唐突に発せられた由紀恵の言葉に一瞬で頭が真っ白になる。まさか社長である由紀恵の口から、世界との交際の話がでるとは夢にも思ってなかった。

(世界くんが……社長に話した……それか社長自ら調べた?)

「その顔だと、世界からなにも聞いてないのね」

「あの……どういう……」

由紀恵が足を組み直すと背中を深くソファーに預けた。

「そのままの意味よ。世界は私と許嫁である花田心奈さんの前で、あなたと真剣交際してること宣言したの。だから心奈さんとは結婚するつもりないともね」

「え?……」

由紀恵の表情から明らかに世界との交際を快く思っていないのがわかる。

「単刀直入にいうわ。あなたもいい歳だから分かっていて交際してると思うけど、世界は今後このTONTON株式会社にとって大事なキーパーソンになる。社長の座を譲る気はないけど、あの子の広い視野で物事をみる力は大いに会社の為に使える稀な才能だわ」

「はい……」

こうして由紀恵から言われると改めて世界と私では、すむ次元が違うと感じてしまう。御曹司である世界とたかが課長、それも年が一回り離れている私が交際なんて誰が見ても世界の一時の気の迷いだと思われても仕方がない。

「適当なとこで別れてね」

言葉が出てこない。
そんなことできないと言わなきゃいけない。
世界とのことは本気だと伝えなきゃいけない。

私は掌をぎゅっと握りしめた。

「あの陶山社長、私、御堂くんとは……別れるつもりはありません」

直ぐに由紀恵の顔が険しくなった。

「あなた……自分が何言ってるのか分かってるの?」

「はい……分かっているつもりです……それでも彼が私を必要としてそばにいて欲しいと思ってくれるのならその気持ちに応えたいんです……」

由紀恵はタバコに火を点けると、あからさまに私に向かって煙を吐き出した。

「ケホッ……」

「あら、ごめんなさいね。私ヘビースモーカーなの」

由紀恵はいら立ちを隠そうともせずに、ガラスの灰皿に雑に灰を落としていく。
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