世界くんの想うツボ〜年下ドS御曹司との甘い恋の攻防戦〜
俺は梅子の横顔を眺める。梅子のクセなんだと思う。見積書を作成しながら悩ましげな表情で、時折右手の拳を顎に軽く当てるやけに仕草が色っぽい。

(仕事はめちゃくちゃできんのに、恋愛は鈍いんだな……)

殿村は梅子に対して特別な感情を持っている。梅子は気づいていないようだが俺には直ぐに分かった。殿村の梅子を見る目はほかの女性社員を見る目と明らかに違っていたからだ。同じ獲物を狙うオス同士にしか分からないのかもしれないが間違いない。

(なんていうか、心許してるってゆうか、大事に思ってるのがわかるっつうか)

なぜ殿村が梅子にいまだ手をだしていないのかは分からないが、俺が戦線布告をしたことで今後の殿村の梅子への接し方も変わってくるだろう。

(負けてられねぇ)

ただでさえ相手の方が梅子との付き合いも長く、人生経験も男としても包容力も上だ。俺に勝てるところと言えば御曹司の肩書きと若さくらいしかない。猪突猛進だ、まずは押して押して、ダメなら一度ひけばいい。

「……ちょっとなんなの、こっち見ないでよ、気がちるからっ。さっき内線かかってきてたのに断ってたけど、その子と帰ればよかったのに!」

(ん?見すぎたな。あと、もしかしてちょっと妬いてくれてんのか?)

「内線は同期入社の許嫁なんですけど断りました。俺は興味ないんで」

「許嫁ね。大事にしてあげなさいね」

「源課長にそんなこと言われたくないですけど」

梅子は商品カタログと図面を見ながら、パソコンを高速で叩く指先を緩めない。

(なんだよ、心奈のこと全然気にしてねぇし。そもそも話し相手すらしてくれねぇし……)

俺は窓の外に目を遣った。此処はTONTON株式会社本社の八階だが、外は藍色の空に勿論月と星が浮かんでいる。事務所の壁掛け時計に視線を移せば二十時を回ったところだ。
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