世界くんの想うツボ〜年下ドS御曹司との甘い恋の攻防戦〜
子供みたいにケラケラと笑う世界に思わず見惚れてしまう。

心の真ん中がムズムズして、恥ずかしいような照れ臭いような、でも嫌じゃない。こんな気持ちはずっと前に置いてきたはずなのに、私は目の前の世界に忘れたはずの思いを抱きそうになる。

──もう恋なんてしないと決めたのに。

「はい、両面目玉焼き」

ことんと置かれた両面焼きの目玉焼きを眺めている私の手を引くと、世界がダイニングテーブルの椅子に座らせる。

「昨日は時間なくてオムライスでしたけど、今日は梅子さんの好きなメニュー作ってあげますよ」

「今日?……ええっと……」

三十過ぎると、そもそも恋愛の始め方が分からない。ましてや相手がひとまわりも年下なんて想定外すぎて数少ない恋愛経験ではとても対応できない。

「ん?何考えてんの?」

「このままじゃ……世界、くんの想うツボだなって……」

「あはは、想うツボ、いいすね」

マグカップにコーヒーを注ぎながら世界が大きな口を開けて、いたずらっ子みたいに笑う。

「言っときますけど、梅子さんのこと俺、全部ツボってますから」

「へ?……ツボる……」

「そ。好きってこと」

咄嗟に頭の中にその二文字がリフレインしてくる。
世界がコーヒーを置きながら私の額をこつんと突いた。

「そんな顔されると押し倒したくなるんでやめてください」

ダメだ。このままじゃとんでもなく甘いはちみつの入ったツボの中に心も体もまるごと全部ひきづりこまれてしまう。世界が意地悪く唇の端を持ち上げると私の掌を握った。

「約束します。三か月後、梅子さんに俺との契約更新したいって言わせて見せますから」

「な……」

「はい、とりえず食べて?いただきます、してからね」

世界が握っていた私の掌をひっくり返すとフォークを手渡す。

「あ、ありがと。い、ただきます……」

私の返事と共にチンッと小気味の良い音がしてトーストの焼けた音がする。

──何故だがその音が恋の戦いの始まりを告げる角笛の音に聞こえた。
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