世界くんの想うツボ〜年下ドS御曹司との甘い恋の攻防戦〜
今日の後半は仕事しながらも、隣の世界を見るたびに心奈の言葉がよみがえってきて、何度もため息を我慢した。

まだ契約交際は始まって二週間だが、このもやもやと抱えた気持ちがどうにも我慢できなくて、私は今夜世界に契約解除の話をしようと心に決めていた。

あの通り、マイペースで勝気でわがままな世界が何ていうかは分からないが、これ以上世界と一緒にいれば、あっという間に世界にペースに染められて、これまでの自分が自分じゃなくなってしまいそうでこわくてたまらない。

仕事だけに生きていくと決めたのに。仕事の方が恋をするよりずっと簡単で裏切られることも傷つくこともないから。

「……どした?もしかして子犬?」

「え?子犬って……」

「あの生意気で、梅子のまわりでキャンキャン鳴いて、僕にすぐ噛みついてくる子犬だよ」

「あ、御堂くんか」

私がふっと笑うと殿村も笑う。確かにあの綺麗な瞳につい見惚れれば、隙を突かれて、あっという間に世界に心の真ん中を噛みつかれる。

「今年の新入社員の代表挨拶、彼らしいな」

「らしいね」

(世界くん。無事、挨拶終わったかな……)

毎年新入社員の歓迎会で代表一名が新入社員を代表して挨拶をするのだが、今年は世界が挨拶することになっている。

──『ね、梅子さん、ちゃんと俺のこと見ててよ』

先週、映画から帰ってハンバーグをご馳走になりながら世界に甘ったるい声でそう念押しされたことを思い出した私は、ついに小さくため息を溢した。

「梅子?」

「あ、なんでもないの」

エレベーターのドアが開いて、殿村が『開』ボタンを押し私を先に下ろしてから宴会場の扉を開いた。すぐに壇上から響いてくる少し高めの甘い声に、私は目を見張った。
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