タロくんとハナちゃん
そのまま、車に乗せられた華子。

「大人しいじゃん!偉いね~」

違う━━━━━
怖くて、あまりの怖さに抵抗できないのだ。

横目で、自分に当てられているナイフを見る。


ふと思う。
タロくんなら、こんな時どうするのだろう。

太朗には、口ぐせのように言っている言葉がある。

“本当に強い人間は、武器を持たず一人で向かう。
丸腰で前を真っ直ぐ見て、堂々と向かっていくんだ”

(………って、無理だよ!
どっちかっていうと、私は“強さ”とは縁がないようなものなんだから!
そんな度胸、私には━━━━)



15分程走って、何処かの空き店舗に着いた。
中に入るように言われ、言われるまま入る。

無造作に散らばった椅子やテーブルやソファ。

十数人の男性達が、座って煙草を吸ったり、酒を飲んだりしていた。

煙草の臭いで、早くも息苦しくなってくる華子。

なんとか堪えながら、言われるがまま進むと………


「━━━━━━いらっしゃい」
顔見知りの男性がいた。

「………」
(え……剛史(つよし)くん?
嘘…いや“あの”剛史くんがこんな怖い人達と一緒にいるわけが━━━━━)

「俺のこと、忘れた?
弱史(よわし)”だよ?」

「え……」
(は?え?え?お、俺!?
う、嘘…!?ほんとに“あの”剛史くん!?)

華子が驚くのも無理はない。

剛史は華子の小学生の時の同級生で、身体が小さく、ひょろひょろっとしていて、低学年の時は華子よりも細かった。

名前が剛史なのに、全く強くないと言われていて“弱史”とからかわれていた。

小学校卒業して、剛史は親の仕事で同じ中学には通えなかったのだ。


六年振りに会った剛史は、細身ではあるが背は伸び、程よく筋肉もついていて細マッチョといったような姿になっていた。

「華子ちゃん、タロマルの女ってほんと?」

「………」

「答えて?」

「……あ…」
(あ、あれ?声…上手く出せない…)
華子は、顔が青ざめる。

「華子ちゃん?」

「……あ…あ…」
必死に口をパクパクするが、声が出ないのだ。

「華子ちゃん、まさか…声、出ないの?」

「………」
剛史に訴えるように口をパクパクする。
瞳は潤み、冷や汗も出ていた。

ゆっくり、近づいてくる剛史。
そして、優しく頭を撫でた。

(え……?)
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