タロくんとハナちゃん
「これ…もしかして、ペアリング?」
講義中、水羅が小声で聞いてくる。

「あ…はい」

「へぇー!見せて?」
「え?
あ…は、はい…」
外して、渡す。

「不思議な模様ね」
「あ、はい」

「何処で買ったの?」
「え?
◯◯ジュエリーです」

「そうなんだー
今年の新作とか?見たことないデザインね」

「いえ。
…って言っても、一点ものです。
一点ものばかりのブースで選んだんです」

「一点もの……」

「……??水羅ちゃん?」

「あ、ううん!」

「あ、あの。
もう、いいですか?」

「あ…あのさ!
一日だけ、貸して?」

「え……
さ、さすがにそれは……」

「お願い!!
明日、たけちゃんの講義出るよね?
その時に返すから!」

「でも、大切なものなんです……!」

「わかってる!
友達でしょ?
今日だけだから!」

結局、押しきられる形で指輪を貸した華子。

(どうしよう……
タロくんに何て言おう……)

太朗のことだ━━━━━

例え一日でも、水羅に指輪を貸したなんて知ったら嫌がるに決まっている。

太朗を傷つけたくない……

華子は、バッグに入れていたカットバンを、左手の薬指につけた。
(よし!怪我したことにしよう。
とにかく、隠さなきゃ!)

「━━━━ハナちゃーん!」
講義室を出ると、太朗が抱きついてきた。
華子も思わず、しがみつくように抱きついた。

「ん?ハナちゃん?どうしたの?」

(平常心、平常心!)

「いえ!」
華子が腕の中から見上げて、微笑んだ。

「…………
……そう?行こ?」
「はい!」


帰りの電車内。
太朗が、腕時計を返そうとする。

「ハナちゃん、ありがと!
おかげで、なんとか耐えること出来たよ!」

「フフ…良かったです!」

「また、来週も貸して?」

「あ、だったら……これはタロくんが持っててください!
タロくんが嫌じゃなければ、タロくんにあげます!」

「いいの?」

「はい!
かなり古い腕時計だけど、良い腕時計なんですよ?」

「それはわかるよ!
だってこんな古いのにしっかりしてるし、渋くてカッコいいもん!」

「はい!私はあんまり覚えてないんですが……
お母さんがプレゼントした、ブランド物の腕時計らしくて!
お父さんとお母さんの思い出の腕時計です!」

「でも、宝物でしょ?」

「そうですけど、それよりももっと大切なモノ見つけたから!」


「え……」
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