タロくんとハナちゃん
走り去っていくバイクを見ながら、俊彦はスマホを操作し理一郎にメッセージを送った。

【タロさんとハナちゃん、今出ました】
すぐに“既読”になる。

それを確認して、俊彦も車を走らせた。


“タロさんとハナちゃん、今出ました”

「━━━━やっとかよ…!!」
咥え煙草で、スマホ画面を見ている理一郎。
めんどくさそうに言った。


理一郎は、華子の従兄。
実家も近く、ある意味兄妹のような関係だ。
太朗とは高校の同級生で、華子の一つ年上。

そして俊彦は、華子の高校の同級生。

太朗、華子、理一郎、俊彦は、同じ高校出身。

太郎丸のメンバーでもある、理一郎と俊彦。
その為、華子の引っ越しを手伝わされていた。


バイクのエンジン音が近づいてきて、見慣れたバイクが向かってくる。

理一郎の前で止まると、ヘルメットを外した太朗。
「お待たせ」
と一言。

「遅い」
理一郎も、一言。

「遅くなって、ごめんね!」
同じく華子も、ヘルメットを外し言った。
理一郎にペコペコ頭を下げた。

「ハナちゃん」
「え?」

「理一郎にそんなペコペコしなくていいんだよ?」
「でも…かなり、待たせたみたいですし……」

「いいの!
……………な?理一郎。いいよね?」
目で訴えるようにして言う、太朗。

その鋭く恐ろしい視線を受け、理一郎は“ふぅー”と息を吐いて「あぁ…」と頷いた。

「ハナちゃん、行こ?」
華子の手を引き、マンションに入る。

オートロックの鍵を開けようと、太朗が鍵を出す。
その太朗に華子が「あ…あの…」と声をかけた。

「ん?ハナちゃん、なぁに?」

「オートロックの鍵、私が開けてもいいですか?」
太朗を窺うように見上げ言った、華子。

「ん。いいよ!今日から、ハナちゃんの家でもあるもんね!」
と、太朗が微笑み言う。

「ありがとうございます!」
そう言って、片手でショルダーバッグをごそごそしだす。(もう片方は、太朗と手を繋いでるから)
しかし、見つからない。

太朗の手を離し、両手でごそごそする。

「あれ?」
(確かに入れたのにな…)

「ハナ、まだ?」
「ハナちゃん、持ってくるの忘れた?」
理一郎と太朗が、一緒に覗き込んでくる。

「あ、いえ…確かに入れました。
実家出てくる前にも、確認したので…」

そこに、スーツケースをゴロゴロして俊彦が来た。

「あれ?どうしたんすか?」
俊彦も一緒になって、覗き込んできた。
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