タロくんとハナちゃん
華子と理一郎の夜
「━━━━心配すんな。俺は何もしない」
「わ、わかってるよ」

華子と理一郎は今、ラブホテルの一室にいる。
何故、こんなことになったのか。



5時間前に遡る━━━━━━━

「あーーー!離れたくないぃぃぃー!」
その日の夕方。

太朗が御堂邸の門の前で、駄々をこねていた。
華子を抱き締め、頬をすり寄せている。

「で、でも…私は一緒に行けないので……」
「うー」

今日は、御堂一族の年一回の会食日。
御堂一族が集まり、夕食をとりながら話をする。

ただ…それだけなのだが、御堂一族にとっては昔からのしきたりで、必ず集まらなければならないのだ。

太朗は愛人の息子だが、何故か受け入れられているため、出席しなければならないのだ。


「タロちゃん!まだ、駄々こねてんの?
ほら、おいで!」
なかなか、離れない太朗。

すると、屋敷から丸雄が出てきた。

「やだ!やっぱ、行かない!
ハナちゃんから離れない!」

「は?太朗、何言ってんの!?
ここで行かないと、今後華子ちゃんといれなくなるかもよ?」

「………」

「な?
基本的には、自由を許されてんだから。
これだけはちゃんとしろ!」

丸雄に説得され、漸く太朗は屋敷に入っていった。


華子は、しばらく切ない表情で御堂邸を見上げて、近くで待っていた理一郎の所へ向かった。

「お待たせ、理一郎くん」
「ん。ほれ!」

理一郎が、ヘルメットを渡してくる。
それを受け取り、華子はかぶった。

「ハナ、どうすんの?夜飯」
「ん?家で食べるよ」

「家?実家?タロ宅?」

「タロくん宅」

「……つうことは、一人?」

「うん」

「じゃあ、どっかで一緒食お?」

「え?」

「嫌?」

「ううん。そうじゃないよ。
ただ…ちょっと、びっくりしたから」

「そうか?」

「うん。理一郎くん、そんなこと言ったことないから」

「そうかな?
……………そうか…そうかも…(笑)」
一人で納得したように言う、理一郎。
フフ…と笑った。


二人は、バイクで町外れの定食屋に向かった。

「なんか、落ち着くね!」
「だろ?
おまけに、飯も旨い!」

「へぇー!」

「ん。何にする?
俺のおすすめは、しょうが焼き!」
華子にメニューを見せながら言う、理一郎。

華子は「じゃあ、おすすめのしょうが焼きにする!」と、微笑んだ。
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