タロくんとハナちゃん
バイクを走らせながら、理一郎はこの言葉にできない複雑な想いをもて余していた。

(なんなんだ……なんなんだよ…これ…!!)

いつの間にか、太朗・華子の自宅マンションから遠ざかっていた。


ある山奥の高台にある小さな公園━━━━━━

そこで止まった、理一郎。

「………ここ…何処?」
華子が、理一郎に問いかける。

「ここの景色、綺麗だから…」
ポツリと言って、華子の手を握り柵に促す。

「理一郎くん?
…………わぁー、綺麗~!」
不思議そうに引かれるまま柵まで行き、下の景色を見下ろす。
あまりにも綺麗な街の景色に、華子は瞳を輝かせた。

「だろ?」

「うん!
…………ありがとう!こんな素敵なとこに連れてきてくれて!」

見上げて微笑む華子。

理一郎の胸が、ドクンと大きく叩かれたようになる。


あ、ヤバい………

理一郎は、この……複雑な想いと胸の痛みの正体に気づき始めていた。


ここで離さないと、手遅れになる。

「帰ろ?ハナ」
また理一郎は、華子の手を握り引いた。

「………」
そんな理一郎の様子に、華子は首をかしげる。


バイクに着きヘルメットを受け取った華子は、理一郎の顔を覗き込んで見上げた。

「な、なんだよ…」

「理一郎くん、やっぱ今日おかしいよ?
どうしたの?」

「いや、別に」

「そうかな?」

「あぁ」

「体調悪いとかじゃないよね?」

「あぁ」

「だったらいいけど……
なんか、心配だな」

「は?」

「だって、理一郎くんは私のお兄ちゃんみたいなもんだし」

「兄ちゃん?」

「うん」

「兄ちゃんかよ…」

「え?」

「━━━━━━俺は!お前の兄貴じゃねぇよ!!!」
思わず、声を荒らげた理一郎。

「え?ご、ごめんね!」
ビクッと怯えて、華子が謝る。

「あ…いや…俺、こそ、わりぃ……」
ハッと、我に返ったように理一郎も謝る。


「と、とにかく、帰ろ?」
華子がそう言って、ヘルメットをかぶった。

その時、二人の雰囲気に比例するかのようにあっという間に雲行きが怪しくなり、雨が降りだした。

「わ、降りだしたな!
とりあえず、行くぞ!」

二人は、バイクに跨がり走らせた。
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